第4章 蓋
春は少し悩んでから「知ってるけど、知らない」と理解に苦しむ発言。
「どういうことだよ。それ」
「俺が知ってるのは…多分ほんの一部。分からないことの方が遥かに多い気がする」
「……その一部って?」
首を傾げる俺を見て、春はゆっくり首を横に振った。
「だめ。これは、俺から軽々しく言っていいものじゃない」
軽々しくって…
そんなに重要なこと…。
"呪い"のこと…?
俺の知らないことを春が知っている…という事実に胸の痛みと共に軽い苛立ち。
ひまりから直接聞いたんだろうか。
それとも偶然知った?
どっちにしても正直、良い気はしなかった。
そして春のこの様子だと、聞いたところでなにも教えてはくれないだろう。
苛立ちを消したくて肺から空気を吐き出す。
「分かったよ。自分で聞く」
それでもまだ苛立ちは無くならなくて、少しぶっきらぼうに言ってしまう。
そんな俺を見て春はポケットに手を入れると困ったように笑うから、自分の子どもっぽさが少し恥ずかしくなって目を逸らした。
「じゃあ俺、そろそろ行こうかな」
「どこに行くんだ?」
大きな欠伸をして頭の後ろで手を組む春に問う。
目の下に濃い隈を作って、今から何処に出掛けるつもりだろうか。
「ん?ハムスターハンター買いに。由希が話し相手になってくれたから、丁度いい時間になった」
「…なんだよハムスターハンターって」
「…巨大なハムスターを狩って素材を剥ぎ取る…ハンティングゲーム」
「…趣味悪くないか?それ…」
「そう?」と春は軽く返事をすると、忘れてたけど…と俺の近くまで来てジーッと顔を見てくる。
「俺…ひまりのこと好きだけど…由希への愛は、変わらない」
「周りに勘違いされるからやめてくれないか?それ」
俺が腕組みをして呆れたように言うと、無表情のまま俺の肩をポンと叩いた。
「まあ、そういうこと。ひまりのことよろしく」
また欠伸をして歩いていく春の背中を見た後、ふとさっきのスズメに目を向けた。
木の枝から様子を伺っていたスズメは、春が去って行くのを確認して横たわるスズメの元へと舞い降りる。
そしてまた何度も何度もそのスズメの体を揺すっていた。
俺も…後悔はしたくない。
そのスズメ達の姿からなかなか目が離せなかった。