第1章 宴の始まり
紫呉は掴んでいた腕を強めに握って引き寄せると口角を上げた。
慌てて空いてる方の手で胸に倒れ込むのを阻止して笑顔を作る。
「あははっ!私そんな繊細なタイプじゃないよ!へーきへーき!心配してくれてありがとう!…あ、そうだ!そういえば!!私、紫呉の家に住めって言われたんだけど…由希と夾も…いるんだよね?」
アタフタしながら話題を変えると、紫呉はニッコリ笑って掴んでいた手を離す。
「そうだよひまり。あの由希君と夾君が仲良しルンルーンで、一緒の部屋で一緒に寝起きして暮らしてるんだよー。」
「いや、それは無い。有り得ない。逆に怖いわその状況。」
楽しそうに話す紫呉とは裏腹に、何言ってんだコイツと言わんばかりの冷めた表情で見る。
「おや?簡単に騙されないなんて大人になったねー。」
「本気で騙すつもりならもうちょっと現実味のある嘘にしてクダサーイ。」
話題が大分逸れてることにハッとして
じゃなくて!!と脱線の流れを止めた。
「私が紫呉の家に住む話!高校も由希と夾と同じとこになる話!!ねぇ、何とかならないの?私、今の高校のままがいいし…その…由希達と暮らすなんて…無理だよ…」
長い睫毛を伏せて下を向くひまりを見て不敵な笑みを見せてから耳元に近付くと「呪いのこと?」と小さく囁いた。
咄嗟に一歩下がって目を見開いて驚く彼女は、酷く怯えているようにも見えた。
「知ってるのは慊人さんと、はーさんだけだと思った?ごめんね?随分前に慊人さんから聞いてたんだよ」
「そう…だったんだ…」
随分前…ということは、それを知っても紫呉の態度は変わらなかったんだと理解し安堵した。
「まあ、とにかく慊人さんの言うことは絶対だからね。この決定に絶対に逆らえないのは君もよく分かってるでしょ?」
ひまりはそのまま押し黙り、諦めがついたのか肩を竦めて小さく分かってマスと呟いた。
「えらいえらい。今日はもう遅いから明日また迎えにきますよ。あと…」
首元を指差されたので訳も分からないまま触ってみる。
指に付いた固まった血の欠片を見て、そういえばと思い出した。
「それ、はーさんにちゃんと診せとくんだよー」
そう言うと紫呉は頭を2、3回撫でてから帰って行った。