第1章 宴の始まり
夏休みに入ったとはいえ、生徒会の引き継ぎの仕事は山積みで。
午前中を学校で過ごした。
今日の朝早く出て行った紫呉に話があるから早く帰ってきてねーと言われていたので終わり次第、すぐに学校を出てその帰り道。
真昼間の日差しが差すように照りつけてきて汗が滲み、濃いグレーの髪が額に張り付く。
暑さから逃げたくて足早になる。早く家に帰ってコップに目一杯氷を入れた麦茶を一気に飲み干したい。
そろそろ家に着く所で着物を着た見慣れた人物の姿が見えた。
その横を歩いてる自分と同い年くらいの小柄な女の子がその人物と楽しそうに会話をしている。
あれは……絶対そうだ。
走馬灯のように昔のことが思い出された。
白い肌に薄茶色のストレートの髪、くしゃっとした無邪気な笑い方はあの頃のままだった
ひまりも【中】に住んでいたから、時々こっそり部屋まで遊びに来てくれていた。産まれた日が一緒だったことも親近感が湧いたひとつだった。
十二支の呪いのことも知ってるから一緒にいても気が楽で、いつもニコニコ笑っているその存在に何度も救われた。
お正月の宴には参加はしなかったものの、慊人にも十二支同様依存されていた気がする。
だからひまりが居なくなったときの慊人の暴れ方は凄かった。
本当に急にいなくなった。
(私ね…由希に話さなきゃいけないことがあるんだ。今度…聞いてね…?約束…ね?)
その約束が果たされることは無くて。
…もう会えないと思っていた。
「ひまり…っ」
昨日のあれはやっぱり見間違いなんかじゃなかったんだ。
気が付けば走り出していた。
走りながら頭の中で何を言ってやろうか考える。
何で急にいなくなった?
ずっと何してた?
どれだけ心配したと思ってる?
何で連絡もくれなかった?
走ってくる俺を、向こうも見つけて驚いた顔をしていた。
ひまりの目の前に着くと紫呉が「おやおや、あの由希君が取り乱すなんて珍しいーっ」なんて茶化してくるから睨んでおいた。
目の前で肩で息をしている俺を見て戸惑った後、彼女が微笑む。
最後に会ったときは同じ目線だったのに、今はひまりが自分を見上げていた。
それが時の長さを物語っている。
やっと……
やっと会えた