第4章 蓋
俺を見ていた春は、その視線を道沿いの木陰に移す。
風が吹く度に右へ左へと揺れる影の中で動かない小さな影を彼はジッと見つめていた。
そこには一羽のスズメが横たわっている。
「傷ついたひまり見たときに確信した。だから傷付けた慊人に腹立ったし、逃げた自分にも腹立って…気付いたらブチ切れてた」
動かないスズメのもとへやって来た、もう一羽のスズメが様子を伺うようにその周りをピョンピョンと飛び跳ねた後、今度はその体の上に乗ったり降りたりを繰り返している。
まるで、起きて。と言っているかのように何度も何度も「チチチチッ」と声をあげながら。
春はゆっくりと立ち上がるとスズメのもとへ近寄って行く。
するとスズメは春が近付くギリギリまで"蘇生"を試みたあと、名残惜しそうに近くの木の枝へと飛び立って行った。
春はその場でしゃがみ、咲いていたシロツメクサを一本摘むと、横たわるスズメの体の横に添えてやる。
「後悔したくない。俺は、失いたくない。ひまりのこと。"俺が"守りたいって思うから。…だからもう遠慮しない」
立ち上がって強い決意を持ったようなその瞳を向けられ、俺は息を呑んだ。
遊びで近づいてるだけなら、ひと言言ってやろうと思っていた。
けど本当に…春は本気なんだ。ひまりのこと。
「由希は?」
「へ?」
唐突に話を振られて俺は間抜けな声で返事をしてしまった。
「ひまりのこと、どうなの?由希も夾もホの字だと、思ってたけど?」
「ホの字って…。どうだろうな。わからないや。でも…そばにいたいし…触れたい…って思うよ」
「それってもう…いや。いいや。言わない」
なんのことか分からず眉を潜めて「なんだよ」と聞くが、さぁ?と軽くはぐらかされる。
「それより…慊人。気をつけた方がいい。ひまりのこと目の敵にしてる感じがする。前に俺が慊人に呼ばれた時、ひまりのこと貶し続けてたし。今回のことも何か引っかかる」
「慊人は…どうしてあんなにひまりに執着して…そんなに毛嫌いしてるんだ?春、何か知ってるのか?」
今回のことで確信した。
ひまりには、俺の知らない"何か"がある…。