第4章 蓋
なんだろう…
いつもみたいに、お前コケるなんて馬鹿だろ(草生える)みたいに貶してこないし
いつもより優しいというか…
いや、夾は優しいんだけど。
「夾…頭打った?」
「…頭打ったのはオメェだろ…病院行くか?」
なんだ。いつもの夾だったわ。
真剣に夾の顔を覗き込む私に、呆れ果てたように突っ込まれる。
それは言い過ぎだろう。と言い返そうとした時、夾の体が前に吹っ飛んで行くのを見て私の思考は一旦停止する。
後ろを振り返ると、夾の髪色と同じオレンジ色の可愛らしい猫のリュックを背負って、可愛らしくない雰囲気で片足立ちをしている楽羅の姿。
どうやら後ろから夾に蹴りを入れたらしい。
「朝っぱらから堂々と浮気なんぞ見上げた根性してんなぁぁああ?!」
「か、楽羅…」
フーッフーッと獣のように息を吐きながら夾にブチ切れる楽羅だが、私の方を見ていつもの可愛らしい彼女の顔に一瞬で戻る。
「え!ひまりだったの?やだ!私ったら勘違いして!」
楽羅はすぐさま夾に駆け寄ると、倒れている彼の上半身を起こしてぎゅーっと抱きしめた。
「夾君!こんなボロ雑巾みたいに…!可哀想に…!」
「あー。えっと。おはよう楽羅」
私の方を向くために座っている夾の後ろからハグをしたまま笑顔で「おはよう」と可愛く笑う楽羅は、何度見ても思うが先程の彼女と同一人物とはとても思えない。
「お前こそ朝っぱらから何なんだよ!離れろ!」
「ひまりに会いに来たんだよ!勿論、夾君にもね!」
ぎゅーっと夾に抱きついて幸せそうな顔をしている楽羅を見ていた私は自然と頬が緩んでいた。
私には無縁だけど…可愛いなぁ。
恋する乙女って。
「そういえば、ひまりはなんでゆんちゃんの服着てるの?」
「あー。まぁ、色々と…」
どう説明すればいいのか分からず言葉に詰まっていると、何を思ったのか楽羅は目をキラキラさせて私のもとへと歩み寄ってくる。
「そっかそっかー!そういうことなんだねっ!」
訳が分からず目をパチパチさせている私に「任せてっ」と嬉しそうに耳打ちするが、やっぱり何のことだかさっぱりだった。
「ゆんちゃん誘って、今日は4人でダブルデートだぁ!!」
「「は??」」
私と夾が声を揃えて言うが、相変わらず楽羅は嬉しそうに笑っていた。