第4章 蓋
夾には気にするな。と言われたが、やっぱり気になるもので。
「ねぇ、春が言ってた"もらうかも"ってなんの話?」
「知らねーよ」
夾は何だか不機嫌で素っ気ない。
春は突拍子もないことを急に言うから…またその類かなぁ。
「……コケて頭打って、気失ってたらしいじゃねーか。その…大丈夫なのかよ」
拳を顎にあてて悩んでいると、目を泳がせて口を歪ませながら問うてくる夾。
「はとりにも診てもらったし…大丈夫。心配してくれてありがとう」
昨日のこと、春はそういう感じで伝えててくれたのね。と理解して話を合わせたが…夾の挙動不審さが目についた。
まさか…
「…メントスコーラのくだり…聞いた?」
これしか考えられない。
春のやつ面白半分で言いやがった説濃厚。
夾は笑い堪えてるんだ。
負傷した私に気を使って大爆笑したいが、出来ない…ってところだろうか。
「はぁ?ンだよそれ?めんとすこーらぁ?」
何言ってんだコイツと言わんばかりに眉を潜めて私を見る夾。
あれ?メントスコーラじゃないの?
ただ自爆っただけじゃないか私。
じゃあ一体…
また考え込むと、何かに足を引っ掛けつまづいて転びそうになる。
「あっ…ぶねーな。またコケるつもりかよ」
夾が腕を掴んで助けてくれたことで大事に至らなくてすんだのだが…
「き、夾…い、い…」
「あ??」
冷や汗をたらたら流しながら、彼が掴んでいる腕を指差す。
そこは今朝はとりに再度消毒してもらった、包帯を巻いている右腕だった。
指差した部分に夾が視線を向けると、目をこれでもかってくらいに見開いて焦りながらその手を離してくれた。
「わ、わりぃ!…い、痛い…よな?」
珍しく眉尻を下げて申し訳なさそうな顔をする夾に、痛みの余韻に耐えながら「大丈夫」と伝える。
「その…腕。何で…ケガしたんだよ」
「んー。コケた所にガラス片があってそれで切ったっぽい」
「ふーん…そうか」
何となく雰囲気が変わったような気がして夾を見ると、前を見ていたその瞳に鋭い眼光が宿っているように見えた。
私の視線に気がついた夾が、優しい目で「どした?」って声を掛けてくる。
なんだ。怒ってるのかと思ったけど気のせいか。
…それにしても。
「なんでもない」
今日の夾はなんだか調子が狂う。