第4章 蓋
朝食を食べ終え帰る準備をしていると、潑春も一緒に来るつもりなのか部屋着から私服に着替え始めた。
先程、朝食を食べながら何度か夢の世界へ旅立っていた姿を見ていたひまりは心配そうに眉を潜める。
「私、外までくらい1人で大丈夫だよ。全然寝てないんでしょ?1回寝た方がいいよ…」
「ハムスターハンターの新作、買いに行くついで」
いつもの上下黒のロックテイストな服を身に纏い、軽く伸びをしてから大きな欠伸をすると一枚の紙をポケットに突っ込んだ。
現在、朝の9時。
「こんな時間にお店開いてないよ」
「…予約してないから、店に並ぶ」
「………」
ポケットに入れたの予約用紙だったじゃん。という言葉が喉元まで出てきたのをひまりは飲み込んだ。
やはり一睡もしなかったのはゲームのやり込みの為ではなく、ひまりの体を心配してのこと。
今回のコレもひまりに負担をかけさせない為の潑春の気遣いの嘘だった。
このまま押し問答を続けたところで、昨日からの潑春を見ていると意志は固そうだしコレ以上は無意味だなとひまりは小さくため息を吐いて、彼のその気遣いを有り難く受け取ることにした。
正直、重そうな瞼と変色した下瞼が心配ですぐにでもベッドで横になってほしい所だが。
「帰ったらすぐ寝るんだよ」
「…ひまりが可愛くお願いしてくれるなら」
ポケットに手を入れて口角をニヤリとあげる潑春をじとーっと睨む。
そして、やってやろうじゃん。と謎の闘争心に煽られたひまりは両手をグーにして顎の下に持ってくると上目遣いで潑春を見上げた。
「ちゃんと寝て…?お願い?」
自分史上最も可愛い声を意識してお願いを言うが、潑春の表情は一切変わらなかった。
「……5点」
「永遠に眠らせてやろうか」
ポーズはそのままに、額に青筋を浮かべて自分史上最も低い声で威圧感を与えたつもりだが、潑春はクスクスと笑っていた。
「…嘘。可愛い可愛い」
ひまりの頭を二、三度撫でて行こうとする潑春の背中を睨んで、犬扱いやら子ども扱いやら、私の方が年上なのに確実にナメられてる…と不服そうな顔でその後をついていった。