第4章 蓋
はとりの診察が終わり、春の部屋へ戻ると誰かと話している声が聞こえ、電話かな?と邪魔しないようにゆっくりと扉を開け中に入った。
「…うん分かった。伝えとく。じゃあまた後で」
電話を切った春がこちらを見て手招きをする。
何かと思い春の近くまで行くと見覚えのある服を渡された。
「これ…春が着て帰った由希の服?」
「うん。服、着替えた方がいいよ。そのままだと道ゆく人が、ビビる」
借りた服をついでに持って帰ってほしい。ということだと解釈していたので、これに着替えろの意を聞いて少し驚いた。
春に言われて自分の服を見てみると、忘れていたが所々に血がついている。
確かにこのままだとすれ違う人達をビビらせてしまうだろう。
「由希と夾、今から迎えに来る。着いたら本家の外で待ってるって」
そう言って大きな欠伸をする春の下瞼は紫色を帯びていた。
「え、私1人で帰れるけど…それもう決定事項?」
着替える為に春に後ろに向くように手で促して聞くと「うん決定事項」とまた欠伸をしていた。
「…それに由希達が来ないんだったら、俺、送るつもりだったし」
「なんか…わたし…子供扱いされてない?」
由希の服を着て大きめのズボンのウエストと裾を何度か折り込む。
鏡をみなくても大きすぎる上下の服に、着せられてる感凄いんだろうなぁと思った。
「それだけひまりが大事ってこと」
春のその言葉に私は動きを止めた。
両手放しでは喜べない。
隠し事がまだあるから。
「…ありがとう」
そう言ったあと、フッと自嘲した。
春は"隠している私"を大事だと言っただけなのに
素知らぬふりして、ありがとうなんて…
着替えが終わり春に声をかけて、昨日持ってきた紙袋に着ていた服を入れた。
「…由希達着くまで、まだ時間あるし…朝ごはん食べる?」
「え!いいの??」
お腹が空いてきてたから嬉しくて食い気味に言うと、春は堪えるように笑った。
多分、嬉しさが全面に出てたんだと思う。
「適当に持ってくるからまってて。……おすわり」
「犬じゃねーわ」
人差し指を立てて犬扱いしてくる春を睨みつける。
ククッと喉で笑って私の頭を撫でると、「マテだよ。まーて」とまた犬に、お預けさせるように掌を見せながら部屋を出て行った。