第4章 蓋
朝一番にはとりに呼ばれ部屋に行くと、血が滲んだ腕の包帯を見て怪訝な顔をする。
寝ている間に開いていたとひまりが必死に説明するが
「どうやらお前は俺を過労死させたいらしいな」
開口一番にこう言われた。
処置をしながら、はとりは不機嫌そうな雰囲気をプンプンと出している。
「い、イタっ!いたいよはとりっ!」
「だろうな」
顔を歪ませて騒ぐひまりを軽くあしらいながら、その手を緩めることなく消毒した腕に包帯を巻いていく。
「体に違和感は?」
「特にないよ!大丈夫」
「本当に頭は打ってないのか」
「それも大丈夫。倒れたときは春が支えてくれてたし…」
それを聞くとはとりは眉間にシワを寄せ、大きくため息を吐いた。
はとりの苛立ちを感じてひまりは申し訳なさそうに眉尻を下げると体を小さくさせる。
「ごめん…迷惑かけて」
「いや…この苛立ちはお前に対してじゃない。俺自身にだ」
その言葉を聞いてひまりは訳がわからない。と首を傾げる。
「ひまりが慊人に呼び出されたことは知っていた。気をつけてはいたんだが…なんの力にもなれなかったな」
悔いたようにひまりを見つめるはとりに、彼女は急いで何度も首を横に振った。
「待って待って!なんではとりがそんな顔するの!春にも言ったけど私の自業自得だよ」
「……由希と夾は知ってるのか?この事」
「春がうまく誤魔化してくれたみたい。多分慊人に呼び出されたの知ってるのは…紫呉だけじゃないかな」
「…そうか」
はとりが「終わりだ無理はするなよ」と付け加えて医療器具類を片付け始めた。
「はーい。ありがとうはとり!」
笑顔でお礼を言うとひまりは手を振って部屋を出て行った。
その背中を見送って、はとりは机に肘をつくとそのまま頭を抱え再度ため息をつく。
潑春に呼ばれ、血を流して倒れているひまりを見た時は血の気が引いたし、慊人を半殺しにし兼ねない潑春を止めるのにもかなり苦労した。
ひまりが戻ってきてからは心配事が多く、心が休まる暇がない気がする。
窓から見える真っ青な空を見上げ、椅子の背もたれに体を預ける。
「お前にとってコレは吉か凶か…どうだったんだろうな。紫呉」