第4章 蓋
一度自分の前でひまりが弱音を吐いたから、聞けば全部話してくれると思い上がっていた。
だが、彼女は誤魔化し続け、話そうとはしなかった。
もう一度問い詰めるべきか…
潑春はゲームをしながら考えていたが、ひまりが倒れる寸前に知らないふりをしてくれと懇願していた姿を思い出し、今はそのタイミングじゃない…とやめることにした。
「…いつでも言って。何でもどんなことでも聞くから。…何聞かされても軽蔑しない」
「……春は…優しいね。でも本当に何もないよ。ありがとう」
嬉しくもあり、苦しくもある潑春の言葉で泣きそうになるのを読んでいた漫画で隠した。
「ひまり…寝た?」
本をめくる音が止んで少し経った頃。
声をかけたが返事はなく、もしやと思いひまりを見ると、長い睫毛を伏せて読みかけの漫画を片手に気持ちよさそうに眠っていた。
さっきは眠くない。と言っていたのに20分も経たないうちに眠りに落ちているひまりに思わず笑みが溢れる。
「すぐ寝た。…眠くないって言ってた癖に」
ゲームの電源を切るとひまりが寝ているベッドに腰掛ける。
片手に持ったままの漫画を本棚に片付けると、ふと怪我をしている右腕に目がいった。
はとりが綺麗に巻いた真っ白の包帯が少しだけ赤く滲んでいる。
「あーあ。傷、開いてる」
あれだけ怪我に気を使わずに動かせば出来たばかりの傷は開くだろう。
掴めば手が回ってしまいそうな程細いその腕に少し触れてみた。
「ほっそい腕…」
ひまりはまだ何か隠してる。
そもそも慊人がひまりの呪いを俺等に隠してる理由もわからない。
あの時、弱音を吐いたひまりが
心を開こうとしてたひまりが
少し変わった気がする。
あのまま俺にだけ弱音を吐いて頼っていてほしかった。
規則的な呼吸をだす艶めいた唇を親指ですーっと撫でる。
由希も夾もひまりに何か特別な感情を抱いているのは確実だと思う。
それぞれ自覚してるかどうかは別として。
「このまま…帰したくないな…」
ひまりにこの声が届かないと分かっていて、敢えて声に出した。