第4章 蓋
「どっちみち今日寝るつもり無かったし。明日新作のやつでるから今日の内にやり込む予定」
どっちみち…というのはひまりがいてもいなくても、ということだろう。
それがひまりを納得させる為の嘘なのかは分からないが、潑春の意思は固いようだった。
「じゃあお言葉に甘えて、ベッド占領しまーす。眠くないから漫画でもっっイッ!!」
ひまりがベッドにあがりゴロンと寝転がると、またしても傷のことをすっかり忘れていたひまりは右腕を下敷きにして寝てしまい呻き声をあげた。
「ひまりって…学習しないね」
どこからか取り出したポテチを開け、口に放り込みながら皮肉を言う彼の背中をひまりはキッと睨んだ。
「春なんか太ってしまえ!そのままポッチャポチャのぶっくぶくになってしまえ!」
「残念。俺、どんだけ食べても、太らない体質」
「うーわ。世の全女子敵に回すよその発言」
ひまりは呆れたように言うと近くの本棚から漫画を適当に取ってベッドで横になりながら読み始めた。
「そういうひまりはダイエット中?今日、何も食べてない」
「朝ごはんは食べたよ。でも何か食欲でないんだよねーまあ、このまま痩せたら万々歳ってことで」
潑春はちらっと包帯を巻かれているひまりの腕を見て「それ以上痩せたら骸骨」と呟いたが、ゲームのボス戦の音楽にかき消されてひまりの耳には届かなかった。
しばしの沈黙の後、潑春がその沈黙を破った。
「慊人…何にキレたの?」
「んー?いつもの慊人の嫌味?的なのにイラっとして反抗しちゃっただけだよ」
「俺が…ひまりが物の怪憑きって、知ってるってバレたからだろ…」
潑春はある程度その問いに対しての答えを自分の中で出していたのだろう。ひまりの答えをスルーして自身の考えを述べた。
その強引な返答を誤魔化すために、笑いを含めて「違う違う」と否定した。
「春は考えすぎ。ただ私が慊人の気に触ることしちゃっただけだよ。春にバレたーとか、そんなの話題にすらあがらなかったよ」
そう答えるひまりに、潑春は表情にこそ出さなかったが納得は一切していなかった。