第4章 蓋
——— 鼠の命を吸い取ったのは誰?
潑春の横で彼がやっているゲームをボーッと眺めていると、ひまりは慊人の言葉を思い出した。
由希を慕っている春がこの事実を知ったらどう思うんだろ…
"拒絶"の言葉が浮かび背筋がゾッとする。
自分が狡いことをしているのは分かっている。
でも、高校卒業すれば私は…
「ん?お腹でも、空いた?」
いつの間にかゲーム機から潑春の横顔に目線を移していたひまりに気付き、視線はゲーム機に向けたままの彼が声を掛けた。
そういえば…と思い出してみると、朝ごはんを食べてから何も口にしていないことを思い出す。
「ううん。大丈夫。お腹空いてない」
その割に全くと言っていい程空腹感を感じず、潑春が用意してくれていたお茶をひと口飲む。
「食べられそうだったら、適当に持ってくるから言って」
「…私、本当に泊まって大丈夫なの?」
とんでもなく今更だが、迷惑なんじゃ…と心配になってくる。
潑春はやっぱりゲーム機に視線を向けたままだった。
「ひまりが、俺のこと襲わなきゃ…大丈夫」
「そろそろそのボケかますのスルーしてもいい?」
呆れたようにひまりが言うと「だめー」とまるで遊びをやめさせてくれない子どものように潑春は答えた。
それを聞いたひまりが肩を竦めていると、大きな欠伸をして浮かんできた涙を擦る潑春。
「あれ?春寝てないの?」
さっき部屋が暗かったから、てっきり春も寝てたのかと思ったけど違うんだろうか…
「とり兄が頭打ってるかもしれないからひまりの様子見とけって」
「え、ごめんそうだったの。頭打ってないから大丈夫だよ。ずっとベッド占領しててごめんね。私もういっぱい寝かせてもらったから、春が寝て」
眉尻を下げて言うひまりに潑春は首を横に振った。
「今から裏ボス…ここで辞めたら男が廃る」
「知らんわ。セーブして寝なよ」
潑春は再度首を横に振って、ひまりを見た後にベッドに視線を動かす。
どうやら目線だけで、ひまりにベッドで寝ろと言っているようだった。