第4章 蓋
あ、担架か。
担架だったら変身せずにここまで……
そもそも草摩家に担架なんてあるんだろうか。
「俺が両脇持って、とり兄が足首持って…運んだ」
「待って。恥ずかしすぎて死ねる」
膝を使って頬杖をついて淡々と話す春だが、その状況を想像したらあまりにも運ばれている自分が滑稽で両手で顔を隠した。
「死体…運んでるのかと思った」
「待って。トドメ刺すのやめて」
さらに両手を顔に押しつけて羞恥心を隠す。
恥ずかしさで顔を上げることが出来ずにいると、春が立ち上がりパチッという音が聞こえた。
顔を隠している指の隙間から様子を伺うと、部屋の電気が灯されていた。
暗さに慣れてしまっていた目を細めながら、今何時だろう…と部屋を見回しても時計らしきものが見当たらない。
「ねえ、春…今何時?」
春は自分のポケットからスマホを取り出すと時間を確認する。
「…シンデレラの魔法が…解ける時間」
なんとメルヘンチックな時間の伝え方。
今度私も使わせてもらおう…って、それって…
「12時?!え、夜中?!」
驚きで口をパクパクさせていると、春は一度だけ首を縦に振る。
どれだけ寝てたの私。
「と、と、とりあえず紫呉にれんら…いぃッ!!」
咄嗟にベッドから降りようと、また右腕で体を支えてしまい襲う激痛に悶絶する。
そんな私を特に気にすることもなく、春はベッドを背もたれにしてポータブルゲーム機のスイッチを入れてやり始めた。
「先生の家には、連絡した。由希が出たから、ひまり、こっちに泊まらせるって…」
「え……」
まさかあったこと全部話したんじゃ…
「慊人にされた事、言ってないから安心して。ひまりがメントスコーラチャレンジやってて負傷したって伝えたから…」
「ねぇ、なんてことしてくれたの?」
無表情で声を低くして言うと、春はククッと喉で笑って「嘘。ジョーダン」とチラッとこちらを見て言う。
からかわれた仕返しをしたくて背後から強めに頬をつねるが、春は抵抗する様子もなくゲームを続けていた。
まあ、でも私の気持ちを汲んで慊人のこと言わずにいてくれたんだなぁ。とつねっていた手を離すとベッドを降り、春の隣に腰掛けた。