第4章 蓋
「なんでだよ!なんでこんな紛い物…本物の十二支だったら当主にだって気に入られたはずなのに!」
ごめんなさい
「抱き上げることさえ出来ないんだ。愛情なんて沸くと思うか?こいつが紛い物として産まれた時点で俺の人生は終わったんだ」
ごめんなさい
「頼む…紛い物の記憶だけを消してくれ…アイツとの記憶は消さないでくれ…頼む…愛してるんだ…」
ごめんなさい
——— ひまり
「お前が産まれなければ幸せになれてた人間がどれだけいると思う?」
——— ひまり
ごめんなさい
ごめんなさい
——— ひまり
私が…っ
「…っ!…はぁ…はぁ…」
悪夢を…見た気がする…
目を開けると常夜灯がついた薄暗い部屋。見慣れない天井。
でも…見たことは…ある。この部屋。
寝起きで頭が働かない…どこだっけココ。
「…やっと起きた」
「いっ…っ!」
急に聞こえた声にガバッと上半身を起こすが、右腕に激痛が走り声にならない声が出た。
ベッドの下に片膝を立てて座る春の姿。
だんだん思い出してきた…。
ここ、春の部屋だ。
「あ、右腕、使わない方がいい」
「時すでに遅し…」
起き上がる時に体重を支えるために使った右腕の傷がズキズキと痛む。
「私のこと…ずっと呼んでた?」
夢の中でずっと名前を呼ばれていた気がする。
「うん。うなされてたから。平気?」
「ありがと。平気。嫌な夢っぽかったんだけど、覚えてないんだよねー」
目線を上にして思い出そうとするが、春に呼ばれたこと以外思い出せなかった。
「そういえば!!春…ブラック…!」
今日の出来事で思い出せる最後の記憶はブラック降臨中の春。
まさかあの後慊人の所に行ったんじゃ…
「大丈夫…ひまり倒れて、とり兄呼びに行った後、落ち着いたから。慊人に会ってない」
その言葉にホッと胸を撫で下ろす。はとりが腕の処置してくれたんだ。お礼言わなきゃ。と包帯が綺麗に巻かれた右腕を見る。
だが、ここでとある疑問が浮かび上がってきた。
「私ここまでどうやって来たの?」
抱き上げられたり、おんぶされてたら変身してしまう。
ちゃんと服を着ているから、変身して連れてこられた感じでは無さそうだし…