第4章 蓋
「どうして言わなかった…」
「言えばどうにか出来てたのかい?」
挑戦的とも言えるその笑みに、頭に血が登ったが何も言い返せなかった。
そう。教えられていても慊人に抗えない俺たちにはどうする事も出来ないから。
自分の弱さと無力さを由希は痛感する。
「もういい!クソガキ!二度と掛けてくんな!」
夾が怒りに任せて受話器を投げつけるように置くと、彼もまた紫呉に物言いたげにやって来る。
「何で言わなかったんだよ。お前、ひまりがドコにいるか知ってただろ」
潑春から全て聞いたであろう夾は怒りで震える手を握りしめていた。
「由希君にも言ったけど…それを君達に伝えたところで何が出来るんだい?慊人さんに縛られている"僕達"に」
腕を組んだまま小馬鹿にしたように片眉をあげて由希と夾を見る紫呉に、夾は耐えていた怒りを爆発させた。
「だからって痛めつけられるのを黙って見とけってのかよ?!おかしいだろ!ひまりは俺らと違って縛られる必要ねぇじゃねーか!!」
紫呉は怒鳴る夾に眉ひとつ動かすことはない。
結局夾も紫呉の的を射ている言葉に反論は出来ず、怒鳴った後に苛立ちを壁にぶつけていた。
「……迎えにいく」
眼光を鋭くさせて玄関に向かう夾に、同じ事を考えてたのか。と由希もそれについていく。
「やめた方がいい」
静止させる紫呉を2人が怪訝な顔をして振り返る。
「なんでだよ。何されるかわかんねーのに慊人の近くにいさせろってのかよ」
「いつも本家に顔を出さない君達が、ひまりの為に本家の敷居を跨いだってことが慊人さんにバレたらどうなるとおもう?」
今度は紫呉が鋭い眼差しで2人に問う。
その言葉を聞いて由希と夾はハッとした。
更にひまりが慊人の不興を買う……
「"守る"を穿き違えない方がいいよ。いつまでも子どもじゃないんだから。……君たちが今出来ることは…何もないんじゃない?」
まるで煽るように二人に告げると、一気に顔を歪ませる。
夾はいつものことだが、由希も珍しく壁に八つ当たりをして部屋へと上がっていった。
由希と夾が見えなくなってから小さく溜息を吐く。
「僕の悪いクセだねぇ…」
煽る事が。
はーさんに怒られるの嫌だなぁ。と渇いた笑いをして居間に戻って行った。