第4章 蓋
日が傾き空一面が髪色と同じオレンジに染まった頃、夾は自宅の戸を開けるところだった。
道場でかいた汗のせいで身体中がベタベタとするその感覚に嫌悪感を覚えながら家に入る。
玄関に入った瞬間、違和感を覚えた。
いつもそこにある筈の靴が無かった。
ひまり…買い物か?
あまり深くは考えずに靴を脱ぎ、お風呂へ直行する。
途中、紫呉の「夾君おかえりー」という声に軽く返事をして、体の不快感から解放される為にシャワーを浴びた。
お風呂から上がるとまだひまりは帰宅していないようで、ここで初めて何か変じゃないか?と思い始める。
その時、玄関の戸が開き、帰ってきたか。と安堵したがそこに立っていたのは由希だった。
さっきの安堵感はすぐにぶち壊された。
軽く舌打ちをしてから居間で寛いでいる紫呉に問うために、紫呉の元に向かった。
「おい。ひまりどこ行ったんだよ」
「帰り遅くなるみたいだよ。だから出前とるから何か選んでねー。あ!由希君も!」
テーブルに置いていた出前のチラシをヒラヒラとさせているが、夾は苛立ったように眉根を寄せる。
「だからどこに行ったんだって」
夾の言葉を遮るように鳴り出した電話。
また軽く舌打ちをして、その電話に出ようと廊下に出たが、既に由希がもしもし…と受話器をあげていた。
『姫君を…預かった。返してほしければ、由希の自撮り写真を50枚送って』
「…春。分かるように説明して欲しいんだけど…」
潑春の訳の分からない電話に、由希は頭を抱えて説明を求めた。
『…ひまり、今俺のとこで寝てる。今日、こっちに泊まらせる』
「…どうしてひまりが本家にいるんだ?泊まらせるってどういうこと?」
潑春の説明に不審そうな顔になり、声も少し低くなる。
それを聞いていた夾も苛立ちを露わにして眉間にシワを寄せた。
『言うか迷ったんだけど…情報共有。ひまり、慊人の不興を買って右腕負傷、意識失ったように倒れた。とり兄に診せたから体はとりあえず、大丈夫』
「なん…だよそれ…っ。なんでそんな事になったんだよ!」
由希が声を荒げると、紫呉も様子を見に来る。
何となく状況を理解したのか腕を組んで壁に背中を預けて、事の成り行きを見守ることにしたようだ。