第4章 蓋
「お願いだから…ほっといて。私が慊人に反抗しちゃっただけだから。春が…怒ることないから」
大丈夫だから。とヘラッと笑ってみせた。
誰の為に止めてるの?
「ほんとに…知らないふりしてほしい。ほら、みんなに…心配させたくないしさ」
出来る限りで笑顔を作った。
それを見る春は怪訝な顔をしている。
私は狡い。
心配させたくないとか言って全部自分の為。
由希にも夾にも"真実"をバラしたくない。
嫌われたくない。
春を止めるのも自分の為。
反感を買いたくないのは私の方だ。
——— 僕の"物"をたぶらかすな
今ここで春が怒りに行けば、反感を買うのは確実に私。
怖いんだ。慊人に否定の言葉を浴びせられるのが。
なのに春の為に止めてるんだ。なんて自分の中で理由つけて…
なんて狡いんだろう。
春はギリッと奥歯を噛み締めて、私を抱きとめている手で私の肩をギュッと掴んだ。
「ふざけんな。笑ってんじゃねーよ。お前の意思は関係ねぇ。"俺が"嫌だっつってんだよ。黙っとけ」
「それでも!!!」
遮るように大きな声を出すと、傷口を押さえていた手を離し縋るように両手で春の腕を掴んだ。
「お願いだから!お願いだから何もしないで。何も言わないで…知らない…ふりをして…」
まだ痺れが取れない手で強く腕を握って懇願した。
心臓が潰れてしまいそう。
息が苦しくなり足の力が抜けてほぼ春の片手に体重を預けてしまっている。
視界が歪んで気持ち悪い。
また靄がかかったように視野が狭くなっていく。
「おいっ」
少し焦ったような春の声が聞こえた後に、目の前が真っ暗になった。
嫌われたくない。
深く関わることで人を不幸にしてしまうなら、もう受け入れてもらえなくていい。
どっちみち高校卒業までの間だ。
普通の幸せを感じていたい。
それまでの間は何も知られないように
拒絶されないように
全てを隠して、誤魔化して生きていこう。
自由である"今"だけは、せめて…
笑って過ごしたいよ