第4章 蓋
「お前が受け入れられた?笑わせるなよ。全部忘れたのかよ!お前は"欠陥品"なんだよ!間違って産まれた存在なんだよ!不幸の象徴なんだ!自惚れるな!」
ひまりの右腕に湯飲みを押し当て食い込ませていく。
痛みで顔が苦痛に歪むが抵抗は出来なかった。
「由希と夾と仲良くやってるそうじゃないか?2人とも"真実"を知ったらどう思うだろうね?拒絶され軽蔑され…二度とお前に会いたくないって思うだろうね?」
ポタポタと右腕から溢れてくる血が手を伝って床に血溜まりを作っていく。
「お前が産まれなければ幸せになれてた人間がどれだけいると思う?ねぇ、忘れないでよ。僕以外でお前の全てを受け入れる人間が存在する訳ないだろう?他を求めるな。僕の"物"をたぶらかすな」
「もう…やめて…」
慊人からの言葉にひまりの目に宿っていた光はもう消え、闇だけを映している。
わかったから…もう…
わかったから……
目は見開かれ、歯を食いしばって肩で息をする。
もう何も聞きたくない。
慊人はそんなひまりを見て少しだけ口角をあげて、右腕に食い込ませていた湯飲みを引き抜くと床に投げ捨てた。
「やめて…?僕に命令するの?ほんと自分の立場をわかってないね」
その言葉とは裏腹に慊人は満足そうな顔で、ひまりの耳元に顔を寄せる。
「鼠の命を吸い取ったのは誰?猫を1番騙してるのは誰?父親のことも母親のことも不幸にしたのは誰?忘れないで?ドブネズミらしく隠れて生きなきゃ…」
ひまりの頭、頬と優しく撫でていくと、壁に体を預けながら座り込んでいくひまりを見下ろした。
血が流れる右腕を押さえながら体を前に傾けて、必死で乱れた息を整えようとしている。
慊人は発作を起こすひまりの前にしゃがむと、絶望に満ちたその目を見て勝ち誇ったように口角をあげる。
そして優しくひまりを抱きしめた。
「大丈夫だよ。僕だけがお前を受け入れてあげる…」
痛む腕、手も足も顔も発作の影響で痺れて言うことを聞かない。
慊人の言葉に、この人に見捨てられなかったと心の何処かで安堵したのは
この呪いが"そういう風に出来ている"からだろうか。