第4章 蓋
慊人は部屋に入ると窓枠に腰掛け気怠そうに体を預けた。
さっき紅野に言われた言葉が頭の中で繰り返されて、心臓が握り潰されるように痛い。
まるで、仲間じゃないお前が戻る場所はない。と言われたようで…。
「どうしたの?ひまり?考え事?欠陥品でも考え事ってするの?」
冷笑的な薄笑いを浮かべる、この表情が苦手だ。
言葉が出なくなる。
「潑春にバレたらしいね」
「え…どうして知って…」
「もしかしてワザとバラした?」
鋭い眼差しに、無意識にビクッと体が震えた。
「ちがう…ワザとじゃ、ない…」
「そっか。そうだよね。薄汚くて…醜いあんな姿、見せれるようなものじゃないもんね」
——— いいじゃん。ドブネズミ。
春は…そんな風に言わなかった…
春は…
「受け入れて…くれたよ」
慊人は、汗ばんだ手を握りしめていたひまりに近付くと強張ったその頬を平手で打った。
「また勘違い?ねぇ、やめなよその癖。お前みたいな不幸を呼ぶ人間を誰が受け入れるの?」
勘違い?
——— …うま…なきゃ…よかった…
そう…勘違い…。
「潑春の優しさに勘違いしちゃった?じゃあ代わりに僕が教えてあげるよ。お前のこと憐れな存在だとは思っても、誰も受け入れることはないよ。特に由希と夾には絶対に」
でも…それでも
春がくれた希望を信じたい
「勘違いじゃ…ない。勘違いなんかじゃない…」
爪が食い込むほどにキツく手を握りしめ慊人の目を見た。
その光が宿った目が慊人の逆鱗に触れた。
テーブルに置いてあった湯飲みをひまりに投げつけるが、反射的に避けてしまったひまりの背後で壁に当たった湯呑みが割れる。
「ふざけるな!ふざけるな!なんだよその目は!僕に逆らうのか?!欠陥品如きが調子に乗りやがって!立場をわきまえろよ!」
慊人は癇癪を起こしたように叫ぶと、ひまりの後ろに落ち、割れて鋭利になった湯呑みを拾いあげる。
それをひまりの方に向けゆっくりと歩き始めた。
戦慄がひまりの体を突き抜ける。
距離を取ろうと後退りするが、トンと背中に当たった壁がこれ以上距離を取ることを許してくれなかった。