第4章 蓋
「はーるー!お届けものでーす」
ノックをして扉を開けるとゲームをしていた春が、驚いた顔をして振り向いた。
「ひまりだ…もしかして…俺と密会?」
「だから、届け物だってば。こないだ置いてった服!」
春は「ありがとう」と受け取ると、私の顔をジッと見る。
「……本家に用事?」
「まあ、ちょっとね!急いでるからまたね!」
出来るだけ自然に笑ったつもりだったが、部屋を出るときにチラッと見えた春は怪訝な顔をしていた。
いや、まぁ別に誤魔化さなくても普通に慊人に呼ばれたって言えば良かったんだろうけど…
私の心の中にある緊張や恐怖を知られたくなくて咄嗟に誤魔化してしまった。
春は鋭いから…また聞かれたときにどう誤魔化すか考えなきゃ…。
「……ひまり」
慊人の部屋へ向かう廊下で聴き慣れない声に呼ばれて振り向いた。
一瞬、誰だかわからなかったが、この人を知ってる。
「くれ…の…?」
十二支の"酉"の物の怪憑きの紅野が立っていた。
挨拶ぐらいしか交わした事がなく、慊人の1番の"お気に入り"
いつも慊人と一緒にいて、他の者との交流をさせないようにしていたから、紅野が私の存在を知っていたことにも驚いた。
「何故戻ってきたんだ…君は…ずっと外にいるべきだったのに…」
私の手を掴んで、沈痛な面持ちになる紅野に目を見開いた。
「外…に…?」
十二支の人間に拒否された。
ここに私の居場所はないってこと…?
戻ってきたことは間違いだった…?
その言葉で絶望感に襲われたひまりの瞳が、大きく揺れた。
「ひまり…?来たのかい…?」
慊人の声と共に戸が開く音が聞こえると、紅野は急いで逃げるように立ち去る。
立ち竦んでいるひまりに顔を出した慊人が手を差し伸べた。
「遅かったね。こっちにおいで。僕の可愛い…ひまり」
口元だけで笑う当主の優しい声音に、その手に吸い込まれるようにひまりは部屋へと入っていった。
スーッとゆっくり引き戸が閉められる。
吉と出るか
凶と出るか
神のみぞ知る