第4章 蓋
「え…慊人が?」
「そ。今から準備してすぐ来るように…との事ですよ」
朝、由希と夾を見送ったあと、朝の情報番組【サッパリ】を見終えてお茶を沸かしていると電話が鳴った。
紫呉がその電話に出て、戻ってきたかと思えばそう告げられた。
何か呼ばれるようなことがあっただろうか。
その内呼ばれるとは思っていたけど…急で驚いた。
「じゃぁ今日…買い物行けないかも…」
お米がもう無かったから、これは困った。
すぐ帰れたらいいんだけど…。
「必要なものがあれば代わりに買ってこようか?夕飯は出前でも頼むし、気にせず行っといで」
ぽんぽんと頭を撫でる紫呉に、それじゃあ…とお米を買うことをお願いして二階に上がった。
「ついでに春の服も持っていくか」
洗濯しておいた春の服を、適当な紙袋に入れ簡単に身なりを整えた。
部屋を出る前に、鏡の前で軽く両頬を叩き気合を入れる。
「じゃあ、買い物よろしくね。いってきまーす」
「はいはーい。気をつけてね」
笑顔で家を出るひまりの背中を見送る紫呉の元に、また電話がかかってきた。
「もしもーし」
『お前はまた、慊人にいらんことを吹き込んだだろ』
「あらやだ。バレバレ?」
はとりからの電話に戯けてみせる紫呉。
わざとらしくため息を吐くと、はとりは無言を貫いた。
「え!はーさんオコ?!オコなの?!」
『…どうだろうな』
「まぁ……吉と出るか凶とでるか…神のみぞ知るってね」
『凶と出た時には由希達に殺される覚悟しとけ』
「あははー…その時ははーさん助けて」
冷や汗を垂らして助けを乞うが、「悪いが俺もその中に入っている」と言われ紫呉は泣き真似をしながら再度はとりに救いを求めていた。
ひまりは持っていた紙袋をギュッと握りしめる。
心なしか少し手が震えている気がする。
「はぁ……」
何度目か分からないため息。
足取りが重い。
何を言われるんだろうか。
春に荷物を渡して帰るだけなら良かったのに…
「…はぁ」
ゆっくり歩きながら空を見上げる。
鬱々とした気分とは裏腹に、空は雲ひとつない快晴だった。