第3章 とけていく
学校から帰ってきた由希が、階段から降りてきた潑春とひまりを見て玄関で眉を潜めた。
「春?…何してるんだ?」
自分の服を身に纏っている潑春を不思議に思っての発言。
「ひまりと…密会」
「由希おかえりー。買い物行く途中で春に会って、雨に降られちゃったから勝手に由希の服借りたんだ。ごめんね」
潑春のフザけた回答をスルーしてひまりが説明する。
そういうことか、と由希が納得したあとに「買い物行くなら、俺もいい?」と問いかける。
「もちろん。いいよー!ってあ!!私鞄持ってなかった。ちょっと取ってくる!」
ひまりが急いで階段を駆け上がって行くのを見送ったあとに潑春が由希に向き直った。
何かを言おうとした時に、玄関の扉が開く。
そこには雨に濡れ、気怠そうに項垂れる夾がいた。
「ンで、こんなとこで渋滞してんだよ…」
雨の日が苦手な夾は、由希と潑春を避けてフラフラとした足取りで中に入ると靴を脱ぎ始めた。
「俺…もらうかも…ひまりのこと」
両手をポケットに突っ込みそう言う潑春に、由希は目を見開いて、夾は「あ??」と睨みつけた。
「…アイツは物じゃねーぞ。何勝手なこと言ってんだクソガキ」
明らかに苛立った様子で立ち上がる夾に怯むことなく、「濡れてて気持ち悪い…」と言いながら潑春は靴を履き始めた。
「ひまりは…黒派でチート…」
「「何の話だ……それ」」
声を揃えて言う2人を見ることもせず、玄関の外に出て置いてあった由希の傘を手に取った。
「ひまりに言ってて…。俺、用事思い出したから帰る…って」
ついでにコレ借りてく。と手に持った傘を差すと雨の中を歩いて行った。
潑春の背中を見つめ、まさか春の奴…ひまりのこと…と由希は眉間に皴を寄せていた。
そこに戻ってきたひまりが夾の姿を見て驚き、洗面所からタオルを持ってくる。
「夾やっぱり傘持ってってなかったのー?!…大丈夫??」
「ったく…お前、春にあんま近寄んじゃねーぞ」
差し出されたタオルを奪い取ると苛立ちを残したままの目でひまりを見る。
「近寄るなってなんで?…ってかあれ?春は?」
ひまりはさっきまでそこにいた筈の潑春の姿をキョロキョロと探した。