第3章 とけていく
「春は…怒らないの?…軽蔑しないの?」
黙ってたこと。異端者である私の存在のこと。
春は目線を上にしてうーんと考える。
「……ひまりには…ピンク…履いてて欲しかった」
「いや違う。今それじゃない」
もー春はー!と私が笑うと、春も優しく微笑む。
「なんだろ…やっぱりなっていうか…腑に落ちた。色々、予想外なことは…あったけど。小さい頃から俺らと同じ匂いというか、雰囲気というか…そんな感じ、あったから…納得」
頬杖をついた姿勢のまま春は続ける。
「由希と夾に…言わないの。このこと」
「タイミングみて言おうかなって思ってる…ただ…」
由希と夾は…どう思うんだろう。
春みたいに受け入れてくれる保証はない。
イチかバチかの賭けになる。
「正直…怖い…かな。ほら!夾って鼠のこと毛嫌いしてるしさ。私が鼠って分かったら、嫌われちゃったりして!それに変身した私の姿見たでしょ?ドブネズミみたいで汚いしさぁー」
不安を表に出すのはまだ慣れなくて、明るく言う私を見透かすように春は頭をポンポンと優しく叩いた。
「大丈夫」
たったひとこと。
そのひとことで安心出来た気がした。
「いいじゃん。ドブネズミ。賢くて、どんな環境でも生き延びる…ゲームで言ったら…ただのチート…」
「人を不正行為したやつみたいに例えないでくれる?」
「俺なんて…ただの家畜…一生を乳絞られて…終える」
「…春はオスだから乳牛じゃなくて食用でしょ」
「…じゃあ生姜焼きって…共食いだったんだ」
「生姜焼きはセーフ。豚肉だからね?」
こんな春の天然炸裂の馬鹿げた話も、もしかしたら春の優しさかもしれない。
まだ問題は山積みで、不安も恐怖もある。
思わぬ事故で春にバレてしまったけど、良かった…と思う。
私の秘密も…弱さも…少しずつ打ち明けていける気がする。
「忘れてたけど…買い物…いいの?」
「よ、よくない!忘れてた!行こう!春!!」
心が暖かいのは
きっと春が希望を持たせてくれたから。
「あ、春の濡れた服どうする?持って帰る?こっちで洗濯しとく?」
「洗濯…してて。またひまりに、会いに来る口実」
「なにその思春期女子みたいな周りくどい理由。普通に来ればいいじゃん」
私は進んでいける。