第12章 Act
傘に当たる音に耳を傾けながら足を進める。
感傷に浸るような面持ちで向かう先は、もうひとりのボロボロになったであろう"お姫様"の元へ。
あぁ、これは言ったら怒られるか。
ふ、と乾いた笑いを零しながら胸に手を当てる。
ぽっかりと大きな穴が少しずつ開いていくような感覚に眉根を寄せながら暫く歩いて。
見据えた先に目当ての人物が土砂降りの中で、傘も差さずに濁った空を見上げていた。
「由希」
掛けた声に反応して、顔をぬらりと動かして潑春に視線を寄越す。
長いもみあげが頬に張り付いていて、大きな瞳は充血して赤く染まっていた。
全身が濡れてしまっている彼には気休めにしかならないだろうが、持っていた傘を由希の方へと傾けてやる。
ひとり分の傘から自身の肩がはみ出して、衣服が水分を含んで少しずつ重くなっていった。
「……泣いてた?」
「まさか」
間髪入れずに返答がくる。彼なりの虚勢だったのだろう。
それを理解していた潑春は追及せず、由希の隣に立って彼と同じように濁った空を見上げた。
彼に掲げていた傘は、やっぱり意味を成してないなと思って閉じてしまう。
隣に立つ青年と同じように天を仰いで、顔に雨粒を受ける。
感傷に浸るには丁度いい天気だ。
「振られちゃった」
「は?」
同じく感傷に浸っていたであろう由希だったが、一気に現実に引き戻される。
何言ってんだコイツ。そんなカオで「いつ」と問えば「さっき」と返ってくる。
由希は増々怪訝な顔つきになりつつも、まぁとりあえず聞いてはやるか。と小さく肩を竦めた。
「弱ってる所で言っちゃえば、落とせるかな、って」
「はい。予想より遥かに最低。とりあえずお前も一回殴った方が」
「だってさ」
夾の事だけじゃない。何もかも、諦めた顔してんだもん。余りにも情けない声で言うものだから、雨で濡れた目元を拭ってから潑春を見やる。
見間違いかと思った。予想していたよりも、情けない顔を引っ提げていたから。
「全部諦めて、そのまま慊人に引きずり込まれるくらいなら。俺がこっち側に引き留めておく為の、杭になれないかなって。夾の代わりにしていーから、俺に全部ちょーだい、って。俺を利用して、それであの子がまた立ち上がってくれんなら……。でもひまり、言ったんだ」