第12章 Act
「っざけんな!!何で別の人間に託せるんだよ!?俺が明日も、来年も、十年後も。絶対に生きてるって保障あんのかよ!?超能力者でも何でもないただのバカなネコが何でそんな事分かんだよ!?何で託せんだよ!?ふざけんな。お前が近くにいてやれんだろ!ちゃんとお前は生きてて、あの子の元に行くことだって出来て!お前が逃げさえしなきゃ居てやれんだろ!笑わせてやれるだろ!?ひまりの心はお前にしか守れないって何で分からないんだよ!いつまでバカなネコのままでいる気だよ!?俺じゃダメなんだよ!お前なんだよ!」
充血した目で、肩で息をして。
やっぱり腹が立って、バカみたいなカオをしたネコから視線を逸らした。
あぁ、最悪だ。不本意で仕方ない。
それなのに心の中がスッキリしていて、またそれに腹が立った。
鼻の奥でツンとした痛みを霧散させるように、水気を含んだグレーの髪をガシガシと掻いた。
夾は暫くバカみたいなカオのまま、雨に叩かれるアスファルトを眺めて。
今度は由希に当たった拳を見つめて、バカみたいだったカオを引き締めて。
グッと拳を握ってから、ふらつく体で立ち上がる。
「……あいつは?」
「家。次逃げたら、二度と近づかせないし奪い取るから」
「……わかった」
悪ィ、さんきゅ。多分、バカなネコは横を通り過ぎる時にそう言った。
でもやはり不本意であるし、どう足掻いたって大嫌いだし。
ただの空耳だったことにした。謝罪も礼も聞いてやらない。
初めて夾に打たれた左頬に触れる。
ジンジンとした痛みが消えることはなくて。
眉根をグッと寄せた。
これでまた、ひまりは前みたいに笑ってくれるだろうか。
運命に抗ってくれるだろうか。
あぁ、やっぱり腹立つな。
あの子を変えていけるのが、この世で一番大嫌いで、俺が一番なりたかった奴なのだから。
濡れた髪をかき上げる。大きくため息を吐いて、ゆっくりと立ち上がって。
投げ捨てていた青い傘を拾った。
再度、傘を差す気にはなれなかった。
どうせ全身はずぶ濡れだし、ズボンも靴の中ももうぐちゃぐちゃだ。
濁った水たまりに落ち続ける雨を見つめる。
……今日が雨で良かった。
顎を伝った雫がぽとりと地に落ちて、水たまりの中に馴染んでくれたから。