第12章 Act
「お前が守ってやれんだろ!慊人からだって守ってやれんだろ!ずっと近くで側にいて。この先も支えてってやれんだろ。今だって支えてやれてんだろ。俺はお前みたいに立派な奴にはなれ」
「俺がッ!!」
怒気が込められた震え声が、夾の言葉を遮る。
お前だったら良かったのに。呟いた言葉は雨には掻き消されるようなソレだったのに、夾の耳朶には届いていた。
「お前みたいに、あの子の嘘の笑顔を見抜けて。ほんとに笑わせてやれて。あの子が縛りに抗いたいって……あの子が生きていきたいって……思って貰えるヤツだったら良かったのに……ふざけんな。ふざけんなよ夾!お前じゃなきゃ駄目だって、何で分かんねーんだよ!?」
腹が立って、どうしようもなくて。
勢いそのままにバカみたいなカオをしていたネコを殴りつけた。打った拳が痛い。
「俺じゃなきゃ駄目な理由なんて無ェだろ!?呪いが解けて自由になったお前だったら……ご立派なお前だったらこの先ずっと傷付けずに側にいてやれるじゃねぇか!」
由希の視界にふいに見えた拳。
いつもそうだ。分かりやすい夾の打撃は、由希から見れば躱してくれと言っているようなそれだった。
いつものようにその軌道を確認しながら身を引いて……。
躱したつもりだった。
まるでスローモーションのように近づいてくる拳にから目が離せなくて。
左頬に重く乗った衝撃が走った。まともには入らなかった。
それなのに何故か酷く重かった。
勢いに負けてグチャグチャになったアスファルトに尻餅をついて、衝撃で切れた口端を拭いながら夾に視線を向ける。
案の定、バカみたいなカオをしながら自身の拳を見つめていた。
初めてだった。夾の攻撃を躱せなかったのは。
―――浮かぶ。いつかに見た、世の中の理不尽に奪われた命。ひまりから見えないように、自身の体で隠したその亡骸は惨いものだった。
白い線の上で横たわる小さな体の中心には、車のタイヤの跡がくっきりと残っていた。
前触れも何もなく、強大な理不尽に殺された小さな命。
腹が立つ。ホントにこのバカなネコには腹が立つ。
俺が立派?俺が支えていける?
何で分からないんだ。何で今のあの子を見て分からないんだ。何で出来るのにやらないんだ。何で少女に求められてる癖に、
……ふざけるな。