第3章 とけていく
ベッドの布団の中で身を潜めていると、ボンッという音と衝撃の後に体が元に戻った。
起き上がってベットに座る。布団で何も身に纏っていない体を隠しながら。
その理由は…
「いや、なんでいるの。さっき着替えに出てたじゃん。このままだと服着れないんだけど」
なぜ普通に戻ってきて、当たり前のようにローテーブルに頬杖ついて胡座かいているのか。
「大丈夫。俺、そういうの…気にしない」
「違う違う!!こういう時、気にするの私の方だからね?!最悪、裸見られてもいいけど、パンツ履いたりブラつけたりする所見られるのだけは絶対嫌だからね!?」
「……それ、ひまりも…だいぶズレてる」
"も"ってことは自分がズレたこと言ってたのは自覚してるんだ。
ジトーっと春を睨んでいると、観念したのかクルッと後ろを向いて首に掛けていたタオルで髪を拭き始めた。
「もしかして…知らないの、俺だけ?」
「…慊人とはとりと…紫呉は知ってる」
「なんで…黙ってた?」
「……止められてたから」
「…慊人?」
「……私も言いたくなかった…し」
服を着ながら質問に答えていく。
背を向けたままの春がどういう表情なのかはわからなかった。
「……なんでひまりも鼠?」
「…わからない」
「十二支同士なのに、…どうして変身、する?」
「…わからない」
「…ずっとひとりで…全部背負ってたんだ?」
「……え…?」
怒涛の質問攻め。
私はもう服を着終わっていて、春はこちらをむいて先程と同じように頬杖をついていた。
正直私にも分からないことが多い。
ただ分かっていたことは、欠陥品だってこと。
みんなの仲間ではないってこと。
それなのに…
なんで受け入れてくれているような表情で、優しい言葉を言うの。
「そんな…私は…ただ別に…思い詰めてもないし…ツラくも…ないし、私は全然…」
必死で口角をあげて笑おうとした。
でも限界だった。
春が「ん?」とまた優しい声音で言うから…
「ツラ…かった…」
吐き出してしまった。
春は少し驚いた顔をした後、優しく笑った。
「うん。ずっとツラかったね」
浮かべた涙が溢れることはなかったけど、お母さんが死んでから初めて泣いた。