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ALIVE【果物籠】

第12章 Act





全身を打つ雨。刺すような視線。
鈍痛を感じる右頬を押さえながら、気怠い四肢に鞭打って上半身を起こす。
衝撃を与えてきた相手を、夾はぽたぽたと雫が落ちる前髪の隙間から見上げた。
同じく雫が滴る前髪の隙間から眼光を鋭くさせている由希を睨みを返す。
ぐっしょりと濡れて泥に塗れた着心地の悪い衣服で立ち上がって身構えて、重心を低くして濡れた地を蹴った。
こいつにここで完全に負ければ、今度こそ諦められる。
何処かでそんな風にして託そうと思った。
自分自身の感情も、ひまりの事も。
拳を打っても受け止めて流され、蹴りも寸前で躱されてしまう。
そうしてバランスを崩されて隙が出来た所に一発。
二発目は蹴り払われて、また地に伏していた。
―――やっぱり勝てない。
重たい雨は、容赦なく顔を打ち続けてくる。


「何なのオマエ。傷付けてる癖に傷付いてますみたいなカオして。全部投げ出して楽になろうとして逃げて」

「何とでも言えよ。アイツは俺を好きじゃねーっつった。それに、アイツの側にいるべきなのは俺じゃない」


由希はただドス黒い空に視線を向ける夾を睥睨し、奥歯を噛み締める、拳を握り込む。
沸々と沸き上がる怒りに唇が震えれば、顎を伝っていた雫がぽとりと地に落ちた。
怒りのままに夾の胸ぐらを掴み上げる。
バカだ。本当に、馬鹿だ。


「ふざけんな……ッふざけんなよ。本気で言ってんのかよ!?今のひまりを見てたらお前を求めてんのくらい分かんだろ!?やっぱりバカだ!ただの底辺のバカネコだよお前は!」

「バカだよ!悪ィかよ!逃げてんだよ!お前と違って守ってやれねぇ。いつ解けるかも分かンねぇ呪い抱えて、慊人に抗えない俺が側にいたって何にも出来ねぇんだよ!」


何もできない。転びそうになっても支えてやれない。
少女が落ち込んでいても抱き締めてもやれない。
ただでさえ違う物を物の怪側が少女に背負わせてしまったのに。
これ以上荷物を背負わせて、そうして少女が辛くなって俺から離れてしまったら。
傷つける言葉を吐いてしまうんじゃないだろうか。
遠くに行くと泣いた母親に「帰って来なくて良い」と言ってしまったあの時のように。
全てが怖い。
背負わせることも。少女に愛想を尽かされてしまうことも。
傷付けてしまうことも。
全てが怖くて、もう、逃げるしか。
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