第12章 Act
「そっか」
潑春の納得の言葉に安堵して、強張った肩の力を抜いた。
また、視線を無機質な机に戻す。
呪いが解けていない。そう言われればそうなのかもしれない。
何を言われたって何をされたって慊人を放っておけなくて。慊人が苦しんでいれば、身を引き裂かれるようにツライ。
私が近くに居なきゃいけない。そんな使命感がずっと心の底に居座っているのだ。
物の怪憑き達の願い。それを託されたのなら、きっとこの感情は絆という呪いなのだろう。
「……まだ縛られてるから、夾と距離、とったの」
はた、とひまりが瞬きを止める。
あれ。と思った。さっき納得して話は終わったんじゃないのか、と。
「話、聞いてた?解けてるよ」
「縛られてるから、そんなに苦しんでるの」
「だから……ッ」
揶揄されてるのかと思うほどに噛み合わない会話に苛立つ。
強く反論しようとして、潑春と目が合って、ふるりと体が震えた。
「それとも夾に拒絶されてることが苦しいの?」
少しも揺れない瞳で見据えられて、捕らわれて外せない。
どうして放っておいてくれないのだろうか。
このままじゃきっとツラくなる。ツラくなる。放っておいて欲しいのに。
ひまりの顔が徐々に歪み始める。
「苦しくない。何でもない」
「ねぇ、俺にしたら?」
は、と声を自然に発していた。
不意に近寄ってくる潑春の瞳から逃れようとして後ろへと倒れる。
いや、これは押し倒されたの方が正しいだろうか。
顔の横に両手が置かれて、視界は潑春でいっぱいになった。
「なにこの冗談、笑えない」
「最近のひまり、ずっと笑わない。……ってかあの時と何も変わってない。俺、言ったよね。縋りついてこいって。何があっても引き上げてやるって。何で全部諦めたみたいな死んだ目、してんの」
そんなの、僅かな希望に縋ってまた打ち砕かれたら……。そんな事が脳内に浮かんで、あぁ。確かに私はあの頃と何も変わってないのだな。と心の中で苦笑した。
とにかくまずはこの状況から抜け出そうと身を捩ったところで床に片手が縫い付けられる。
振りほどこうにも潑春の力に勝てる筈も無く、鋭い瞳に再度捕えられて息を呑んだ。
見つめられて、瞠目したひまりの瞳が動揺で揺れる。
この目がどういう感情を表しているのか知っている。