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ALIVE【果物籠】

第12章 Act


「ボクはひまりに笑っててほしい」

「じゃぁ俺じゃなく」

「キョーはバカだよね」


言い返そうとして止まる。罵倒の言葉とは裏腹に、少しだけ驚いたカオをして、それから穏やかに笑んだのだ。
前髪に溜まった雫が、ゴールドの瞳を縁取って流れていく。
まるで涙の痕のように。
紅葉は中途半端な霧雨を降らせ続ける空を仰いで、「バカだよ。キョーもハルも……ユキも」そう呟いてゆっくりと夾に近寄る。


「ボクはここまでみたい。だから後は。しっかり怒られてボロボロにされて。ちゃぁんと立ち上がってね」


「は?」と困惑を声にする夾に対して返答はせず。
その代わりに「それと、ひまりにキスはしてないよ。指で唇に触れただけ」そう耳元で告げて湿った肩口にポンと手を乗せられた。
去ろうとする紅葉を振り返る。
振り返った先に、ドス黒い物を生み出す原因のひとりが立ち竦んでいて瞠目した。

紅葉はその相手と一瞬だけ視線を合わせて、そうして何も語らず歩き去っていく。

見覚えのある青い傘。それをそっと閉じて道の端へと投げ捨てる。
見えた双眸はまるで光を放っているかのような鋭さで、寸分の狂いも無く夾に的を置いている。

重たい雲は更に色濃く変化して、陽を一切通さないとでも言っているかのようで。

胃の底に押し込めていた物がせり上がってくる。
歯が割れんばかりに歯噛みして、その気持ち悪さに耐え続けていた。

と、瞬きもせずに視線を突き刺し続けていた青年が、身を低くしたかと思えばとんでもない速さで詰め寄ってくる。
右。夾の脳内がそう処理するよりも先に、重たい衝撃と共に視界が反転した。
みっともなく地に伏した夾に追い打ちをかけるように、雨が音を立てて降り始めた。















「雨、強くなる前に帰った方がいいんじゃない」

「ザーザ―降ったら、泊まろうかな。今日」


潑春は言って、まるで我が家とでも言わんばかりにキッチンの戸棚を開けてお菓子を物色し始める。
居間でくつろぎながらその様子を見ていたひまりは思考を巡らせて、それなら夾の部屋が開いてるな。と思いながら睫毛を震わせた。


「まぁどっち道、由希が帰るまではいるよ。由希にそう、頼まれたし」


由希、大事な用事だって。居間に戻って来た潑春がポテトチップスの菓子袋を豪快に開けながら、ひまりの隣に腰掛けた。
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