第1章 宴の始まり
「ひまり入るぞ」
ガラッと引き戸を開けると部屋の真ん中でポツンと座り込んでいるひまりの姿が目に入った。
その小さな背中を見て、泣いてるんじゃないかと少しドキリとした。
「はとり!!久しぶり!元気だった??うわー何か大人になったねー!!」
振り返ったその顔は"悲壮な顔"とは真逆で
5年前の面影がある無邪気な笑顔だった。
「…あぁ。久しぶりだな。」
何もなかったかのように笑う彼女に戸惑う
そういえば昔からそうだった。
慊人に罵倒されても、殴られて頬を腫らして帰ってきたときも、父親の記憶が消されたときでさえ笑っていた。
昔と違う所といえば、その笑い方がその頃よりも"上手く"なっていることだろうか
「いやぁ、家燃えちゃってホントどうしようって思ってたんだー。荷物も全部燃えちゃったからさー。紫呉が偶然拾ってくれなかったら路頭に迷う所だったよ!」
あははっと明るく笑いその後に、出て行った身分で戻って来るとか気まず過ぎるけどー…と付け足す
(昔からアレの感情は欠けてるじゃない)
「そんなだからあんな勘違いされるんだ」
慊人の言ってた言葉を思い出し、思わず呟いてしまった言葉がひまりの耳に届いていた。
「え?なにが勘違い???」
きょとんとした表情ではとりを見上げる
頭にハテナが飛び交い首を傾げる姿は幼い頃のひまりそのままだった。
「いや、こっちの話だ」
昔の彼女を思い出しフッと笑みが溢れる
「まだ落ち着かないとは思うが、慊人が挨拶しに来いと言っている。後日にしろと言ったんだが、聞かなくてな。すまない。」
"慊人"の名前に動揺したのかほんの一瞬だけ瞳が揺れた。
だがすぐに、さっきの表情に戻す。
「あっちゃー。そうだよね。そりゃそうだ!そんじゃちょっくら気合い入れて行ってくるね!」
両手で頬をパンっと叩き立ち上がると、着ている制服を少し整えてはとりの横を通り過ぎようとする。
気丈に振る舞うその姿が見てて痛い。
思わず小さな肩を掴んだ。
ひまりがビックリした表情のあと、ニコリと笑って見上げてくる。
「…あまり無理をするな」
少し間をあけてひまりは笑っていた目を更に細めて微笑んだ。
「ありがとう」
気遣いへの感謝の言葉を添えて。