第1章 宴の始まり
部屋に入ると、慊人はクスクス笑い
あー。おっかしー…と呟いていた
「調子はどうだ?」
その様子を気にすることなく診察の準備を始める。
「調子?最悪だったよ。アレの話を聞くまではね」
また思い出したようにクスクスと笑い始めた
「ひまりのことか?戻ってきたみたいだな。」
「ふふふっ。5年前に母親と逃げ出した癖によく戻ってこれたよね。未だに仲間に入れるとか勘違いしてるのかな?母親も死んで、家も燃えて…ほんと…っ。アレは不幸に選ばれる運命なんだね。
あははっ…おっかしすぎる…あははっ。欠陥品の癖にそれを受け入れないから運命に抗おうとするから…ふふっ」
目の前で楽しそうな慊人の話を聞いていないかのような無表情で淡々と作業を続ける
「紫呉がさ、面白いこと言ってきたんだ。アレを自分の所に住まわせるのはどうかって。一緒に住めば分かるでしょ?欠陥品は仲間には入れないって。思い知れるでしょ?
それに僕って寛大だからさ高校卒業するまでは自由にさせてあげようと思ってね…」
夏の間は体調を崩し、いつも不機嫌な慊人だが今日はやけに良く喋る。
余程機嫌がいいのだろう。
「あ!そうだ!ねぇ、はとり」
急に呼ばれ、目線だけで返事をすると
診察が終わって乱れた服を直しながらにやりと笑った
「アレ。呼んできてくれない?勝手に出て行って勝手に戻ってきた癖に、当主の僕に挨拶のひとつも無いんだ。ちょっと説教が必要だよね?」
はとりが少し眉間に皺を寄せる
「ひまりは母親に無理矢理連れ出されたんだろう。それに今日火事で家を無くしたところだ。少し待ってやったらどうだ?」
今の状態で会わせるのはひまりの負担にしかならない。
出来れば少し時間をおいてやって欲しいと思った。
「なに?僕に口答えするの?家を無くそうが何だろうがアレはどうせケロッとしてるだろ。昔からアレの感情は欠けてるじゃない。ねえ、連れてきて」
軽く息を吐き出す。
これ以上は慊人の機嫌を損ねかねない。
わかったと返事をして部屋を出た。