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ALIVE【果物籠】

第12章 Act


汗のかいたグラスに手を伸ばし、苦味で舌を潤す。不機嫌そうな顔を貼り付けた目の前の女を見据えて、少しだけ口角をあげた。


「いやぁ、本当は貴女達が草摩を出ていって一年後くらいにはこの場所のことを知ってましたよ」

「……え、こわっ」

「紅野があまりにも分かりやすいもので」


貴女達が草摩を出てから頻繁に出掛けるようになりましたし。慊人さんにバレてないのがむしろ不思議なくらい。
そう付け足した紫呉の言葉に、女は「だからあまり来なくて良いって言ったのに……」と頭を抱えた。
そのまま何処か楽しげな男の顔を見上げる。


「他に気付いてる人は?」

「いないんじゃないですか?慊人さんが酷く取り乱すので、草摩ではひまりの話題はタブーになってますし」


カラン。紫呉がグラスを緩く回した。今度は喉を潤して、彼女の背後にある写真に目を向けて続ける。


「僕、気になってることがあるんですよねぇ」

「……でしょうね。じゃなきゃこのタイミングで来る意味が分からないもの。……あの子がどうして慊人の元へ帰りたがらないのか……ってとこ?」


男の物とは思えぬしなやかな指で、薄いグラスの淵を撫でる。
一周し終えて、「察しが良くて助かります」と怪しい笑みを浮かべた。


「いくら慊人さんから逃げた所で、その内ひまりだけでも顔を出しに来るだろうな……と予想してたんですよね。住んでる場所も思いの外近かったですし、物の怪憑きのキズナはそんなに甘くない。だから……何かあるんじゃないかと思いまして」


女は言葉を返さず黙ったまま腕を組んで、注意深く男を見る。
ただのハッタリなのか、それとも既に裏まで取ってある確信しているものなのか。
この男はそれを隠すのが上手いが故に隙を見せられない。


「へぇ……?その何かって?」


僅かに顔を傾けて、余裕のある表情を張り付ける。
そうして何てことないかのように紫呉を見据えた。


「最初ははとりの隠蔽術を疑ったんですが、はとりって案外分かりやすい性格をしてまして。その後の彼に違和感は無かった。それにあの能力は慊人さんからの指示が無いと使えないですし。でもまぁ……チェックメイトですよ」

「は?」


張り詰めた空気は何処へやら。
女が眉根を寄せているのに、紫呉は涼しい顔でニッコリと笑ったのだった。
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