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ALIVE【果物籠】

第12章 Act


浅はかな考えだった。
記憶が消えれば、きっと楽だと思っていたのだ。
こんな想いを引き摺ったまま、小さな部屋でたった独り、小さな窓から空を見上げて長い人生を過ごすことは地獄だと。
楽になる事だけに視点を置いて、それを消す側の人間の事等考えるにも至らなかった。


「あ、ご、ごめ……」


ふ、とはとりが笑む。
涙を溜めて膝を抱え込む少女の頭に一度手を置いてやった。


「ごめ……ごめんはとり。ごめん……本当に、ごめんなさ」

「構わない。お前が自暴自棄になるのを、辞めてくれたのなら」


抱えた脚に爪が食い込む。「違う、そうじゃないの」とは言えなかった。
この懺悔は、未来の彼へのものだ。
禁忌の牢へ暖かい記憶を持って行くくらいなら、無い方が幸せだと。その方が楽だと。
自身のことばかりを考えていた。
違うんだ。はとりに背負わせてしまう。
今まで培ってきた記憶をはとりの手で消してもらわなければならない。
背負わせてしまう。"私"を殺すことを強制的に背負わせてしまうんだ。
懺悔した。何度も、何度も。
はとりは「構わない」と"今"は許してくれているけれど。
未来の彼へ、ただひたすら懺悔しながら泣いたのだった。





三日間、安眠というものにありつけなかったのは由希も同じだった。
夜中に少女が発作を起こすかもしれない、と眠りが浅くなる。
壁越しに喘鳴が聞こえれば、すぐに少女の部屋へ行き落ち着くまで側にいて。
そうして少女がウトウトと微睡み始めるのを見届けて部屋へ戻る頃には、すっかり外は闇から明けていた。
この三日間、その繰り返しだった。


「由希くーん?寝るなら部屋で寝たらー?はーさんからの話は僕が聞いとくし」


居間の机に頬杖をつきながら舟を漕ぐ由希を見かねた紫呉が声を掛けるが、由希は数回首を振って眠気を飛ばす。
飛びきらなかった眠気が瞼に表れていて、紫呉は微苦笑と共に肩を竦ませた。
珈琲でも淹れてあげますか。気を使う方向性を変えた紫呉が立ち上がったのと同時、聞こえた荒めの足音に目を向ける。
はとりはもっと落ち着いている筈なのだが、居間に入って来たのは紛れもなくはとりだった。

キョトンとした目をした紫呉は、自身の視界が大きく揺れたことが余りにも予想外で。
珍しく瞠っている瞳を、はとりの鋭くなった眼光が捕らえていた。
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