第12章 Act
「そっか」と呟く少女は洗濯籠の底から、最後の一枚になったシーツを拾い上げる。
やはり感情が抜け落ちたようなひまりのカオに、見間違いだったか、と産まれた疑問を何故この時に追及しなかったんだろう。
これを後悔する日が来るとはこの時微塵も思っていなかった。
そんなことよりも、少女の表情をいとも簡単に奪い去ってしまった夾への怒りでいっぱいだった。
バカがひまりを避けるようになった時から募っていた苛立ちが、痛々しい少女の姿を前にもうほとんど沸点に達していたからだ。
ふう、と風に靡く白を眺めていた少女が由希を見上げる。
「はとりに、怒られちゃうかなぁ」
力無いものだったが、久しぶりに少女が微笑んだのを見た。
「怒られるだろうね。俺を過労死させる気か、って」緩んだ表情が嬉しくて由希も少しだけ笑んだ。
顔を出した太陽が、澄んだ青空が。
少しだけ少女の気を晴らしてくれたのだと思っていた。
「せめて部屋で大人しくしてるフリはした方が良いんじゃない?」
ひまりが持ち上げようとした空っぽになった洗濯籠を代わりにと取ると、少女はまた力無く笑む。
ふふ、確かにそうだね。また笑ってくれたことが嬉しくて、抱いた小さな違和感を無いものにしてしまったんだ。
「睡眠、食事、体の不調。全て完結に答えろ」
部屋に来たはとりがひまりの顔を見て、開口一番に放った言葉。
えっと、と困惑の声をあげた少女に分かりやすくため息を吐く。
ベッドに腰掛ける少女の前に立つと、中指と親指で輪を作った。
また少女が、え、と困惑の声をあげるが早かったか次の声が先だったか。素早く額に響いた重たい衝撃に「い……ッ、たぁー……」と体を前のめりにして両手で額を抑え込んで呻った。
痛みを逃がすように足を少しだけバタつかせている。
「目の下の隈、あと頬が少しコケている。それに加えて三日連続、数回の発作。これじゃぁ由希が動揺して俺に連絡してくるのも理解できるな」
「え……、由希が?」
動揺?ひまりは痛みで少しだけ涙が滲んだ瞳ではとりを見上げる。
確かに夾が出て行ってからは食事が喉を通らず、暗闇ではドロリとした真っ黒い思考に支配され眠れない日が続いていた。
そうしたことも相まってか、軽いものだが発作が頻発していたのだ。