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ALIVE【果物籠】

第12章 Act


久しく見る青空だった。
陽光に目を細めながら真っ白なシーツを広げる。
その白が陽を反射させるものだから眉根を寄せた。
いつもより一枚少ないそれを、皺を伸ばしながら丁寧に干していく。
雨が長く続いた時には毎度夾の体調を心配したものだ。
自室で唸りながら眠る夾に何度粥を作っただろう。
長く雨が続いて、久しぶりに陽を見た時には「うるせぇ」と気怠げな夾の隣ではしゃいでいた。

痛む程に唇を噛む。何も考えない。
真っ白のシーツのように思考を白で覆い隠す。
思考を停止させるなら、黒よりも白の方が優秀だ。
黒はどこまでも考えを掘り下げさせる。
それに比べて白は、文字通り頭を真っ白にしてくれるのだ。

白を眺める少女の背後から足音がひとつ。
シーツを広げる前にゆっくりと音の方へと振り返った。


「久しぶりに晴れたね」


銀の髪をそよ風に揺らしている由希が、どこか緊張した面持ちで微笑んでいた。
廊下からバルコニーに脚を踏み入れて空を見上げる。
そこにあるのは、皮肉なほどに澄んだ青空。

夾が出て行って三日経った。
たった三日だった。
それなのに、目の前の少女は酷く変わったような気がする。


「そうだね。梅雨に入ってからはずっと部屋干しだったから」


ありがたいね、太陽。そんな風に言葉を交わす少女の顔に笑顔は無かった。
ごっそりと感情が抜け落ちたような表情で、大きなシーツを広げる。
一度シーツをボーッと見つめて、それからパンッと薄い布が空気を叩く気持ちのいい音を立てる。
少女より少し高い物干し竿に背伸びする姿に「手伝うよ」と声を掛けた由希に、「ありがとう」と小さく呟いた。


「もうすぐはとりが来るって。……心配してたよ。最近発作、多いから」

「はと、り……」


小さな唇がぎこちなく動いて、瞳に僅かな影を作る。
影を作った少女の思考が読み取れず、由希は不安が滲んだ顔でひまりを見つめる。

ひゅ、と喉を鳴らした少女が「はとりは、もう解けてるの」と、どこか焦燥感のある物言いで由希に詰め寄った。
由希は困惑しつつ「何も言ってなかったから解けてないと、思うけど」と返すと、ひまりの瞳が少しだけ穏やかになったように由希には見えた。
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