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ALIVE【果物籠】

第11章 徒桜


あと四十五分はこの空気に耐えなければならない。
紫呉のようにお気楽に眠ってしまいたかったが、隣で眠るひまりがいつ吐くかも分からない状況で気を抜く訳にはいかない。
おまけに赤信号で車を停車させる度に、はとりがルームミラーで視線を寄越す。
その視線に気付いた由希と潑春も首を回して、ひまりの様子を確認する為に肩越しにこちらを見るのだ。
紅葉はそれに毎回人差し指と親指で作った輪を見せる。

あぁ、もう。ホントにカンベンしてほしい。

喉まで出かかった言葉を気合で飲み込んで、代わりに小さくため息を吐きだした。
キョーがいないのがせめてもの救いか……。いや、そもそもアイツが全ての元凶じゃないのか。ひとりで好き勝手にしやがってフザけるな。
紅葉の眉間に皺が寄せられる。また車が停車の気配を見せたことで刻まれたソレは姿を消したが、苛立ちが収まった訳では無い。
どーせまた勝手にひとりで色々とこじらせて、ひまりにあんな態度を取ったんだろう。
ほんとバカ、キョーはほんっっっとにバカだ。
こんなことなら……。
——— サイテーでゴウマンなバカの方を応援したくなっちゃうよ。












扉の前で俯いた。
ノックしようと腕を上げて、躊躇して扉から拳を離す。
話をするにしたって、何を話せばいいのかも分からない。

自宅に到着したのは、濃い青と橙が混ざったような夕暮れ時だった。
はとり、潑春、紅葉、依鈴。それぞれに声をかけていったが、依鈴だけは窓の外を見つめたままで何も言葉をくれなかった。
不快感が残る胃を引っ提げて、紫呉を先頭に自宅までの距離を歩く。
夾はもう家に着いているだろうか。どう声をかけようか。
ひまりの頭の中はそんなことばかりを考えていて、玄関扉の僅かな段差に躓いてしまう。
「あぶなっ」脳内に思い描いていた人物の声が聞こえたが、ひまりを抱きとめたのは由希だった。
ひまりは、ハ、と顔をあげる。夾と目が合ったのは一瞬。
ふい、と視線を外しそのまま階段を登っていく夾の後ろ姿を、胸が締め付けられる思いで見つめていた。

期待はさせない方がいいと決めたのに。
欲深さに乾いた笑いが出る。

後、四カ月。四カ月後には、私は私では無くなる。

グッと下唇を噛んだ。だらりと腕を落とした。
逃げ出すようにその扉を背にして、自室へと静かに足を運んだ。
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