第11章 徒桜
分かりやすい。図星を突かれたと顔に書いてある依鈴に笑みがこぼれそうになるが何とか耐える。
紫呉としても腑に落ちない点がいくつかあるのだ。
慊人が猫憑きの離れを取壊したことだ。どんどんと解けていた呪いは、巳の物の怪に憑かれている綾女が解けた所でパタリと音沙汰がなくなった。
残りは潑春、杞紗、はとり、燈路、紫呉、楽羅、夾の7人。
この状態で、あの神様が猫憑きの離れを取り壊すのは余りにも不自然だった。
自身の見解が正しければ、あの神様はひまりという存在を何があっても手放さない。例え呪いが全て解けたとしても、だ。
それこそ幽閉して、二度と逃げられないように縛り付けておくものだと思っていたのに。
目の前のまだまだ幼い少女から何かヒントを得られはしないか。
床に伏せている本を拾いあげると、表紙を上に向けて組んだ足の上に置いた。
「僕に聞きたいことの答え、もうなんとなく導き出してるんじゃない?目を閉じて見ないようにしているだけで」
「う、るさい。分からないから聞いてるんだ」
「酷く動揺しているように見えるけど」
ワザとらしく肩を竦めてみせる紫呉。何もかもを見透かされるような空気に、依鈴は一度歯噛みした。
言葉にしてしまえば仮定で済んでいるものが確定してしまいそうで口に出したくない。儚い祈りのようなものだ。
だが、その祈りとは相反して依鈴の頭では言葉を選び始めていた。
慎重に選んだ言葉を組み立てて、発することを拒否しようとする喉を何とか押し開く。
「……ひまりは、自由に、なれないの……呪いが解けても、縛られ続ける、の……あの子の背負っているものって……何」
お願いだから否定して。嘘でも構わないから縛られているわけじゃない、気にし過ぎじゃないのかって。
そんな生温さを持ち得ていないであろう目の前の男に、依鈴は無意識に心中で懇願していた。
「ひまりに関しては僕等と違って、呪いが解けても慊人さんからは解放されないだろうねぇ」
温度の無い声音に、ひゅ、と依鈴は喉を鳴らした。
人というものは自分勝手なもので、嘘をつかれたくないと思う反面、否定してほしいことに関しては嘘をついて欲しいものだ。
とくに精神が幼い程、その傾向が強い。
ショックを怒りに変えて相手にぶつける。
全てを見透かす紫呉は、眉間の皺を濃く刻む依鈴に目を細めた。