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ALIVE【果物籠】

第11章 徒桜


「怒ってねーよ。この辺り探しゃすぐ見つかンだろ」


怒りの感情では無かったことにホッと胸を撫でおろす。
だが白と緑を丁寧に分けながらピアスを探し始める夾に、ひまりは苦し気に顔を歪ませ、自身も探す"フリ"を始めたのだった。
希望だけを背に乗せて、真っすぐな瞳で見つめてくる彼を欺いている。
グッと眉根を寄せながら、罪悪感に耐える。
左手の中にある小さなそれをギュッと握り、口を引き結んで耐えた。

同じ景色が見られたら良かったのに。


「あ……あった」

「お。良かったな」


ひまりは慣れた手つきでピアスを付け直し、差し出された手を頼りに痺れた足を真っすぐに伸ばした。
風に遊ばれる一面のシロツメクサは、夾にはどう見えているんだろうか。
同じだったら良かった。明日も明後日も、その先もずっと鮮やかな未来を、一緒に描いていけたら良かった。


「あー……さっきの、言いかけたこと。忘れろ」

「……どうして?」

「別に急ぎじゃ、ねぇし」


急がなくてもいい。もう既にズレが生じている。ズレが生じた道は、進めば進むほど亀裂が広がり深くなっていく。
きっと、進んだ先で気付いた時にはもう。


「……ふふっ、そうなの?」


ひまりは未だに熱を持つ目の周りの筋肉を持ち上げて、微笑みを作った。
辺り一面のシロツメクサ。緑より白の方が割合が多いその景色が滲んで歪む。
きっと夾の瞳には鮮明に映し出されているんだろう。
「まぁた泣いてんのかよ」夾が苦笑する。「うるさい。見ないでよ」ひまりは細い肩を小さく揺らして笑った。

後戻りが出来ない。他に道は用意されていなくて。
貴方が見ている未来とは違う景色が待っている。

それでも世界は何事も無かったかのように明日を連れくる。貴方を忘れて空っぽになってしまっても。貴方と違う未来を生きることになった後も。
世界はそれが当たり前だと言わんばかりに時を刻み続けるのだ。

慊人を受け入れるでもなく、拒否するでもなく。自らで気付いて貰わなければならない。
誰かに手を引いてもらうでもなく、自らの足で立ち上がって檻から出なければ終わりは来ない。

トン、と小指同士が触れた。手を繋ぐでもなく、ただ触れている。風が吹いて、花や葉が擦れる音が耳朶に響く。
この場所でこの景色を見た事実だけは、きっと世界の記憶としては残るのだろう。
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