第11章 徒桜
きっとそこにあるだろうに。光り輝いているだろうに。
見えない。余りにも遠くて、余りにも闇が深すぎて。
「はとり……」
ひまりから出たのは、か細い声だった。
はとりから寄越された視線に、視線で応えるとまた闇を見上げる。
「はとりはまだ、解けてないんだよね」
「……あぁ。解けてないな」
「もしも、解けたらさ。はとりの……」
声が止まる。はとりは唇を引き結ぶひまりに、眉根を寄せた。
一文字だった唇を開いて、空気を取り込む。
僅かに横に振る首に合わせて、緩やかに色素の薄い茶色が揺れる。
「やっぱいいや。何でもない」
うん、やっぱ何でもない。もう一度呟いて、くしゃりと笑った。はとりは、ふ、と苦笑する。
何をどう、見届けることが責任なのだろうか。
旧友が言っていた言葉を浮かべながらポケットを探ろうとしたことに気付く。自身の行動に、嘲笑しながらその手を持ち上げ、また夜空を見上げる小さな頭に乗せた。
「無理をするな。いつでも、どんなことでも……聞いてやる」
当分、ベッドに戻る様子の無い少女は言葉を返さなかった。
吸い過ぎだと言われたソレがない事に僅かな苛立ちを覚えるが、奥底に何かを抱えている少女の気が済むまでは付き合ってやるか。と軽く肩を竦める。
はとりはその瞳に、星の見えない黒だけの空を映した。
腹の底が煮えて、煮え切って、こびりついたソレを更に熱し続けていたような怒りを抱えていた筈だった。
目の前の人間が、あの跡を作ったのだと。細い首に生々しい痣を残したのだと。
力無く机に突っ伏しているソイツの顔を、手を見ただけで怒りを爆発させるには充分であった。
「夾、お前の幽閉は無くなったよ」
ソイツの胸ぐらを掴んで殴りつけようとした拳を無意識に止めていた。
蚊の鳴くような声で告げられた言葉は、到底理解が追いつかないもので、爪が皮膚に食い込むほどに握られた拳から力が抜ける。
続いて掴んでいた胸ぐらも手放していた。
「は……。なに、……言って……」
「猫憑きの離れを壊すんだよ。もうお前は幽閉されない」
血の気の無い唇の動きを揺れる瞳で見つめた。紡ぎ出される言葉を必死に理解しようとして、脳が否定をし始める。
何かの間違いだ、と。騙されるな、と。
「ふざ、けんな……何、企んでやがる……」