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ALIVE【果物籠】

第11章 徒桜


沈黙して、息を飲んで問う。どういうことだ、と。
だが、紫呉は答えない。また煙草を一本取り出し、ライターで火をつけていた。
くゆる紫煙。怪訝な表情のまま、はとりはその煙を目で追った。


「紅野、リン、もみっちからの由希君とひまり。後は、誰が解けてるんだっけ」

「……律、それと多分、綾女も解けてる」

「えーっ。あーや解けてるのー。僕に何の連絡も無かったんですけどぉ」

「俺にも隠していたからな。珍しく本家に姿を見せたかと思えば、やたらと動揺していたから、まぁまず間違いない」


―――やぁやぁ、とりさんっ。いやはや久方ぶりだねっ、元気そうだねっ、久方ぶりだねっ。三日前に会ったがねっ。ははははっ。案ずることは無いとりさんっ。ボクと君との絆は永遠だよッ。おおーっと、いけないねっ、いけないよッ!美音との約束があるのを忘れていたよ。ボクは慊人に会いに来た訳ではないからねっ!少しばかり風情を感じたくてねッ、わざわざこちらまで赴いたという訳さっ!!ははははっ、では、とりさんっこれにて失礼するよっ!


俺に喋らす隙を与えずに去ってったからな。綾女の台詞をある程度省略して伝えたはとりが肩を竦めた。
容易く想像出来るその姿に、紫呉は煙を吸ったまま吹き出したようで、咳き込んでいる。


「まぁ、アイツなりに引け目を感じてるんだろう。解けてない俺達にいらぬ気を使ってるんだろうな」

「あぁ、あーや変なところで弱気で、気ぃ使いだもんね」


その様子じゃ由希君にもなかなか会いに来ないだろうね。くくっ、と喉を鳴らす紫呉に、だろうな。と、はとりは一言だけを返した。
そしてまた、フィルターギリギリまで火種が迫る煙草をジッと見る。


「吸い過ぎは肺を患うぞ」

「えー。それ喫煙者のはーさんが言っちゃう?」


クリスタルガラスの淵に置かれた煙草は、フィルター直前で勝手に灯が消え、かさり、と音を立てた灰が落ちた。
フィルターのみになったそれを紫呉が眺める。


「試練なんだよ。変化を求めた時少なからず試練が待ってる。乗り越えるか、食い潰されるか。その先は光差す丘か、深淵か」

「……慊人のことを言ってるのか」

「いんや」


こっちの話。そう言って口角を上げながら立ち上がる紫呉。その背にわざとらしく作った怪訝な顔をぶつける。
煙のような男が言わんとしている事等、分かりようがなかった。
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