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ALIVE【果物籠】

第11章 徒桜


「がっ……」


突如訪れた息苦しさ。反転した景色。見開いた目がその圧迫感で飛び出してしまいそうだった。
狂気に満ちた真っ黒の双眼の中に、息を吸おうと口を開く自身の姿が写っていた。


「何様なんだよ!?欠陥品の癖にッ、不必要な存在の癖にッ!お前が根源の癖に何が終わらないだよ!?ふざけるなっ!!謝れよ!?」


ギチギチと首元から音が聞こえ、心臓は急な酸欠に警鐘の如く早鐘を打っていた。
声を出そうにも出せない。首元に伸びた手首を掴むことは出来たが、払いのける力が出せない。
吐息すら漏らせない体の筋肉が、痺れと共に弛緩していく。


「僕の苦しみがお前みたいな欠陥品に分かってたまるか!?父様が……父様が言ったんだッ。僕の未来には恐れも不安もないって、あるのは変わらぬ絆だけだって!!」


慊人から溢れた涙がひまりの力無い手の上に落ちる。それが指の隙間に浸み込んで消えていった。


「不変なのに、僕は無条件に愛される筈なのに……っ、お前が、お前が居るからっ!!」


泣いていた。酷く辛そうに。

恐怖や不安を誰かに押し付けて、責任転嫁すれば楽になれた気がしていた。
実際は折り重なって積み上がっていくだけであったのに、見て見ぬふりをして。楽になった気になって。
そうやって少しずつ積み上がった積石。

同じだ、私と。いや、誰もがそうして楽になった気になったことがある筈。

最期の最期に後悔したのかもしれないけど、お母さんに確かに愛されてたんだ。
母親を悪者にして、苦痛に蝕まれるのも母親のせいにして、楽になった気になっていただけ。苦しみが増幅することから目を背けていた。
そうしなければ、心が壊れてしまいそうだったから。

けれど、無心で石を積み上げることを辞めることが出来たのは、私自身に価値があると教えてくれたから。
積み上げてしまった石が、簡単に崩れ去ることはないけれど、これ以上苦しみを積み上げずに済んだ。


薄れていく視界の先で泣く慊人に、手を伸ばしても届かない。

大丈夫だよ慊人。生きていれば、遅すぎることなんてないんだよ。

声を届けられない。音が消えて、頭の中が霞んでいく。

立ち上がらなきゃ。自分で立ち上がって出ようとしなきゃ、ずっとココから出られないんだよ、慊人。

何とか届いた震える手で慊人の頬にあった雫を一粒拭ってやった。無垢で綺麗な涙だと思った。
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