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ALIVE【果物籠】

第11章 徒桜


産まれた時から愛されることを約束され、人の上に立ち、恐怖で縛り付ける以外に心を繋ぎ留める術を知らない。
非難して、侮辱して、それでも離れないことを試して、安心を得て。
そうやって必死で繋ぎ留めて。
でも漠然とした不安と恐怖感は増幅する一方で、藻掻いて足掻いて、壊れていく。


「恐怖や暴力で人の心を縛り付けても満たされないことも、永遠の絆が朽ちてしまったことも、全部気付いてるんでしょう」

「うるさい。僕は縛り付けてなんかない。僕は愛されることが約束されてるんだ、そういう絆なんだ」

「違う、縛り付けてたんだよ」

「黙れッ。お前如きが……欠陥品が、裏切り者が、知った風な口を聞くなッ。どうせ見下して嘲笑ってんだろ。僕が堕ちていく姿がそんなに面白いかよッッ」


パンッ。乾いた音が黒い靄の中に響いた。
じわりと熱を帯び始める頬を手で抑える。
頬を打った当人の憎悪に満ちた瞳の奥に苦痛の色が僅かに見えて、胸が痛い。鼻の奥がツンと痛んで、それに耐えた。


「傷つけたって縛り付けられない、戻ってこないんだよ」

「黙れ黙れッ、戻ってくるッ、永遠に続くんだよ、不変なんだよッ、お前は僕との賭けに負けて禁忌の牢行きだ。今更無効になんてしてやらないからなッ」

「わかってる」


ひまりからの返答が意外だったのか、慊人は目を瞠った。


「賭けは無効にはしない。夾は、きっと、解けないから」


全てが終わるまで。



慊人は更に瞠目して、歪ませていた口元をゆっくりと弧に変えていった。
耐えきれないかのように、はは……と声を漏らし、そして大きく嗤い始める。


「ははっ、あはははっ。はははッ、どこでそんなこと聞いたの?まぁ、どうでもいいか、そんなこと。お前は掛けに負けて、僕だけを求めて、僕だけを頼りに生きていくんだ」


嘲笑う慊人の唇が、ひまりの目を見て震えた。物悲しくも、咎めるような瞳に小さな恐れが芽生える。

違う、間違ってない。僕はなにひとつ間違ってない。
だってそうだろ。僕は神として産まれて、不安も恐れもない未来が約束されていて。
だから不安になれば確かめて、傷付けたって戻って来てたんだ。じゃあそれが正解だったって事だろ。
間違ってない。間違ってなんか……


——— 全部気付いてるんでしょう


違う、間違ってない。だってそうする以外の生き方を知らない。
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