第11章 徒桜
「サイテーな部分も、ゴウマンな部分も、ぜーんぶ分けっこして背負ったげる。だからいいよ。ボクにはサイテーでゴウマンなハルの部分を見せても」
ふふふ、柔らかな声。
潑春は項垂れたまま、ふ、と笑った。「精神病まされそーだから遠慮しとく」更に体重を乗せたのに、その肩が重さに揺れることは無い。
ありがとう紅葉。声に出しては言ってやらなかった。
「あれ……春、どうしたの?」
呼び出されを終えて、屋上に来た由希が、紅葉の背に寄りかかって項垂れる潑春の姿に微苦笑を浮かべていた。
「ユキおかえりー。ハルがねぇ、お拗ねちゃん。もうすっごく拗ねてるのよー」
「ふふ、春が?珍しいね」
「聞いて、由希。紅葉の育て方、間違えた。黒い。もう、真っ黒。ブラック紅葉」
ほんとに拗ねてる。驚く由希に、紅葉はケラケラと笑いながら、ずっとお預けになっていた菓子パンに齧り付く。
「ひまりは?」どちらにでもなく問いかけた由希の質問に、潑春が拗ねたような声音のまま「多分、家」と一言で返す。
夾が寝込んでいることを知っている由希は、あぁ、と帰った理由に検討を付けて長い睫毛を伏せた。
「今日、本家に寄るから遅くなるって伝え忘れてたけど……まぁ、いいか」
「あ、ひまりと一緒にユキも解けたんだよね」
サラリと言われた事に瞠目しつつ、「そんなに、驚いてない?」といちごミルクを吸い上げる紅葉聞くと、「あ、ボクも解けたんだー。ユキ達より少し前に」とサラリと暴露される。
……え?由希の間抜けた顔がひまりがしていた表情とそっくりで、紅葉がブッと吹き出した。
じゃぁ潑春も。と項垂れる白髪に目線を向けるが、「いや、俺はまだ」とすぐに返され、どことなく居たたまれなさそうに目を伏せる。
「まぁ、焦らなくても解ける。近々。……それより」
預けていた体重を戻し、胡坐を掻いた潑春は何かを確かめるように、腰を下ろした由希をジッと見据える。
僅かな緊張感を含んだそれに、由希は首を傾けていた。
「やっぱり、由希は、なんか違う」
「……?解けたからじゃないか?あれ、でも紅葉に違和感はない気が……」
「解けちゃったら、そのイワカンってやつ、感じないんじゃない?ボクもユキにイワカンな」
「無かった」
紅葉の言葉に被せた潑春は、今度は屋上から学内へと続くドアを見据えていた。