第3章 とけていく
「それで、私に何か用事があったの?」
スーパーまでの道を歩きながら問うと、彼は聞いてるのか聞いていないのか…こちらを向かず先程食べていた棒アイスの棒を上に投げてはキャッチし…を繰り返している。
最後にキャッチすると立ち止まった。
一歩踏み出した所でひまりがそれに気付き立ち止まって振り返ると棒を眺めたままの潑春。
「ひまりに…確認したい事…あって」
確認したい事?なんだろう?人狼ゲームで気になるところでもあったのかな…
でもそれだけの為に道に迷ってまでわざわざ来なくても
「泊まった次の日、慊人に呼ばれた」
"慊人"の名前に心臓がドクンと跳ねる。
どういうことか分からない。
確認したい事?
慊人が何か話した?
もしかして私の"呪い"のこと…?
いや、それはない。
慊人は私の"存在"を隠してた。
小さい頃からずっと。
じゃあ春が確認したい事って…?
脳みそをフル回転させて考えてみるが全くもって見当もつかない。
「ひまりのこと…色々言ってて、まるで自分の"物"みたいに…俺らと同じような扱いを、している気がして。…ひまりがいなくなった時、暴れた慊人のことも不思議に思ってた。どうしてそこまで執着するんだろうって」
春が言おうとしていることが分かってしまった。
何か言わなきゃ…
誤魔化さなきゃ…
でも頭の中が真っ白で何も言葉が出てこない。
「ずっとひまりには違和感があった。何となく…"俺ら"と同じ雰囲気。全員揃ってて、それは無いって思ってた。慊人にも否定された。でももしそうだったら全てに辻褄が合う」
ヤバイ。
答えを考えなきゃ。
何か納得させられるような答えを。
誤魔化す為に笑おうと春に目線を向けると、真っ直ぐに私を見るその瞳に体が固まって動かなくなった。
誤魔化せない。
頭の中で誰かが呟いた。
「正直に答えて。ひまりは…物の怪憑き…?」
風が全く無いほどの蒸し暑さだったはずなのに、サァっと冷たい風が通りすぎた気がして鳥肌が立つ。
このまま黙っていれば肯定と取られてしまう。
だからと言って誤魔化す言葉も、その方法も全く出てこない。
握り潰されているように、心臓が痛い。
多分、春は…もう確信してる。