第11章 徒桜
思い出すのは、心を締め付けるようなものばかりだった。
例えば、貴女は私が誕生日を迎えると必ず泣いていた。
何がそんなにツラいのか。心底悲しそうに、泣くのだ。
私の誕生日というものが、貴女にとっては苦痛でしかない日だったんだろうか。
だから分からない。
貴女が考えていたことが。
貴女の本心が。
「へぇ……」
潑春は平然とした顔で、一切の動揺も見せず、まるで興味の無い世間話でも聞かされた後の返事のように、気の抜けた声だけを寄越したのだった。
オマケに屋上でのランチタイムの方が大事だと言わんばかりに、視線はお弁当箱のから揚げにロックオンされたまま、それを口に放り込む。
から揚げの質量で膨らんだ頬を見つめながら、呆気にとられたのはひまりの方だった。
「え、あっれ。私がおかしい?私がおかしいのかな?え。話聞いてたよね」
「うん、ちゃんと、聞いてた。解けたんでしょ。呪い」
「あっれぇ。やっぱ私がおかしい?何で驚かないの」
いや、驚いたよ。そう言って、弁当箱に詰められたご飯をひと固まり掬い取り、口に放り込む。
彼の通常運転っぷりに、もしかして潑春も解けたのか、とそれを問うてみたが、答えは否だった。
分からない。益々分からない。
ひまりが困惑を極め始めた所で、開いた扉から紅葉が顔を出した。
購買で買ってきたいくつかの菓子パンと、いちご牛乳を胸の前で抱えている。
今までなら、華奢な体と愛らしい顔に似合っていたその様は、大きくなった体と大人びて端正な顔つきになった今の彼には、少々不似合いであった。
「おっ待たせーっ。人がいっぱい居て、買うのに苦労しちゃったーっ」
「なんか、ひまりと由希……解けたんだって」
「ちょっ、そんなサラッと」
潑春が挨拶を交わす程度の軽さでそう伝える。
紅葉が二人の隣に座り、骨張った手でクリームパンの袋を開いた瞬間だった。
開いた袋と同じように、ポカンと口を広げている紅葉は、息すらも止まってるんじゃないかと感じさせる程に、時を止めている。
「え、嘘……ホントにっ……ひまりーーーっっ」
潑春のように通常運転で、へぇ。とだけで終わらされるよりかは、よっぽど健全な反応ではあるが、肺が押し潰されそうな程の抱擁を受けるのも、これはこれで困りものであった。