第10章 声に出さないまま
動物達は永遠に続く絆では無く、呪いから解放されることを願いました。
神様のことが嫌いになった訳ではありません。でも、もう絆は朽ち始めていたのです。
そこで、裏切り者として嫌われていた猫の魂が、苦渋の色を滲ませながらある提案を、動物達に持ちかけました。
「やはり不変も永遠も無いのです。朽ちていくのです。このままだと、神様はまた独りになってしまう。もっともっと広い世界で笑う神様を、私は見たい。……終わらせましょう。この絆を、小さな宴を。」
終わらせられるの。それなら結局、神様は独りになるじゃないか。動物達が次々に声を上げます。
猫も困り果ててしまいました。
たくさん話し合い、たくさん悩み、動物達はある答えを出しました。
神様をたくさん愛してくれる人にお願いしよう。私達には、その役割を果たせないから。外の世界でも、怖くないんだよって、愛されるんだよって神様に教えてくれる人を―――。
『神様を独りにしないで。愛してあげて。どうか、外の世界でもたくさん笑えるように。きっとそれを見届けられたなら、猫も安心して―――』
脳に直接響いた声に、零れる涙が止まらない。
いない。もう、体の何処にもいないのだ。産まれてからずっと共に生きてきた物の怪の気配が、もうない。
突然空っぽになったそこが苦しくて、胸に手を当てた。
「由希……」
疎ましかった存在が、寂しさを残していくだなんて考えもしなかった。
由希はだらりと落としていた腕を片方、恐る恐る持ち上げてひまりの頬を包み込む。
自身も涙を流しているのに、彼女の頬を伝う涙を親指で拭ってやりながら、銀の双眼を寂し気に細めた。
細めた瞳からまた涙が零れ落ちたのと同時に、ひまりの腕を引き寄せる。
ひまりは目を見開いて、暖かさに包み込まれて、また実感した。
躊躇しながら由希の背に手を回す。体の変化は、無い。
由希にも。ひまりにも。
居ないのだ。本当にもう、居ない。
「ひまり……っ、ひまり……」
由希は確かめるように、温もりを全身で感じるように腕に力を込めた。色素が薄く、柔らかい髪をひと撫でし、包み込んで更に引き寄せた。
自身の肩口で、彼女が鼻をすする音が聞こえる。
本当に、解放されたのだ。
「もう……自由なんだ……」