第10章 声に出さないまま
動物達は大きく頷き、祈りが込められた契の盃を分け合い、安心しました。
何度でも、この楽しい宴が開けるのだと。終わりが来なければ、何も恐れるものは無いのだと。
でも、猫だけは違いました。浅くなった呼吸と共に涙をポロポロと流したのです。
「神様、どうしてそんな祈りを込めたのですか。永遠等存在しません。終わりがあるから恋しくなるのです。終わりがあるから美しいと思えるのです。不変は、永遠は、美しいものを鎖に変え、蝕むものに変化していきます」
神様も動物達も、猫の言葉に瞠目し、暫くして軽蔑の目を向けました。
裏切られたという気持ちでいっぱいになり、命が消えかかっている猫を誰も気に留めなくなってしまいました。
猫はまだポロポロと涙を流し続けています。
「神様、神様。たった一時であれ、私は幸せでした。貴方に名を呼ばれ、貴方の名を呼び、笑い合えて幸せでした。もしもまた生まれ変わり、貴方に出会う事が出来たのなら、今度はもっとたくさんの物に触れ、大勢の中で笑う貴方を目に焼き付けたい。どうかどうか、永遠を望まないで。どうかどうか、小さな輪の中で立ち止まらないで」
猫が息絶え、しばらくすると、他の皆も次々に終わりを迎え、神様はまた独りぼっちになりました。
ですが、もう寂しくはありません。孤独を恐れることはありません。
必ず受け入れてくれる、"絆"があるからです。
神様が命尽きる時が来た時も、恐怖など微塵も感じませんでした。
何度終わりを迎えても、何度生まれ変わっても、同じ魂と同じ宴を永遠に続けることが出来るのですから。
遠い遠い、昔の話。
あの盃を交わした日から、どれ程経ったでしょうか。
神様の言った通り、絆は続きました。
何度生まれ変わっても、誰かが欠けていても、宴は必ず開かれたのです。
何年も何年も、変わることなく、ずっとずっと続いてました。
ですが、長い年月が過ぎ、猫の言う通りになりました。
動物達にとってこの永遠の絆が、いつの間にか呪いに変わってしまっていたのです。
永遠の絆が重荷になり、小さな輪の中から外へと飛び出し、もっとたくさんの物に触れたくなりました。
ですが、盃を交わした時点で、何度生まれ変わっても同じ魂で同じ宴を繰り返すしかありません。
呪いに変わった約束は、動物達にとっては厄介なものに変わってしまいました。