第3章 とけていく
「俺も…聞いてほしい事があるんだ」
"5年前の約束"について聞かれると思っていたであろうひまりが目を丸くさせてキョトンとした顔で俺を見る。
「まだ…戸惑ってる部分もあるけど…」
きっとひまりからすれば何のことだか分からない言葉達を、何も言わずに真剣に聞いてくれていた。
小さい頃からひまりに対して抱いているこの"特別な感情"が恋なのか、それとも別の…
ただひまりの隣にいるのは俺でありたい。
だからいつか…
「俺の"コレ"がハッキリしたときにひまりに聞いて欲しいことがあるんだ」
ひまりは優しく微笑みながら小指を俺に差し出した。
「もちろん!聞くよ。約束」
抽象的な言葉でしか説明出来なかった俺の言葉に、何の迷いもなく"聞く"と答えてくれたひまりのこういう所に俺は惹かれてるのかもしれない。昔から。
「5年前の約束のことも…聞かせて。ひまりのタイミングでいいから」
「ありがとう。じゃあ、またこうして2人の時間作って貰えると嬉しいな」
昼間の太陽みたいな笑顔ではなく、柔らかく笑うひまりを抱きしめたくなった。
その衝動を抑え、指切りをしたままの手を引き寄せ手の甲に軽く唇を落とす。
「姫の…仰せのままに………なんちゃって」
少し照れたように誤魔化すように笑うと、ひまりは口をパクパクさせてほんのり頬を染めていた。
意外と意識してくれてる…?
「か…ッ!かわッ…!」
「………」
前言撤回。
ひまりが言おうとしていることが分かりムッと不機嫌な顔をすると、慌てて違う違うと首を振り出す。
「かわ…カワハギ食べたいなぁ……なんちゃって」
…ん?あの魚のカワハギ?
誤魔化し方が雑すぎる上に、まさかのカワハギ食べたいなんて女子高校生が絶対言わないランキングのトップに躍り出そうな言葉のチョイス。
「ふふっ…もうちょっとマシな誤魔化し方なかったの?」
笑ってしまった俺を見ると、顔を赤くして「精進します…」と小さくなるひまり
今はまだ…それでも我慢しよう。
いつか必ずカッコイイって
「言わせてみせるから」
「え?カワハギって?」
「違う!!!!」
今はこうして2人で笑い合えるだけで…。