第3章 とけていく
潑春はその場から動かない由希をチラリと見た後、そのまま部屋のドアを閉めた。
"お開き"じゃなかったんだろうか。
座ったままの由希に、声をかけた方がいいのか
それとも喋りだすのを待った方がいいのか…
先程までの騒がしさに慣れた耳は、シーンとしたこの静けさに耐えきれず話しかけてしまう。
「色々ゲームして…楽しかったねー!私あんなに笑ったの久しぶりだよ。明日、確実に腹筋筋肉痛だよ」
由希の横に腰掛け、静まり返った雰囲気を壊すように声を掛けると、夾の前では絶対に見せない、目尻を下げたニッコリ笑顔でこちらを向いた。
「うん!俺もひまりが楽しそうに笑ってるのが見れて良かったよ」
かっ!!かっわ!かわいっ!
なにそのレア笑顔。可愛いかよ。可愛すぎるでしょ。
まつ毛もなっが。
今すぐにでもこの感情をぶちまけたいが、中性的な顔にコンプレックスを持っている由希に"可愛い"は悪口にしかならないので必死で堪える。
「ひまり、5年前の約束…覚えてる?」
私が由希の可愛さに悶えていると、切なげに一点を見つめながら問うてくる。
由希が部屋に残った理由は多分コレを聴きたかったから。
覚えてない…訳がない。
5年前、私は由希に打ち明けようとした。
"呪い"のこと。
由希が産まれて、ほんの数秒後に産まれた私。
ずっとずっとみんなにも隠してきた"秘密"
慊人は欠陥品は隠れて生きるんだよ。誰もお前を受け入れないって言ってたけど
由希なら…受け入れてもらえる気がした。
5年前、打ち明けようとした矢先に草摩を出てしまったからその約束が果たされることは無かったけど…。
「覚え…てるよ。もちろん」
紫呉の家に来てまだ1週間。
自惚れかもしれない。
勘違いかもしれない。
でも、きっと…多分、みんな私の事
大切に思ってくれてるんじゃないかって。
自分のことを価値のある人間だって認めてあげてもいいんじゃないかって。
欠陥品じゃないんじゃないかって…
みんなが思わせてくれる。
話しても大丈夫かもしれない。
みんなになら…
由希になら…
受け入れてもらえるかもしれない
変われるんじゃないかな…私。